介護保険法改正から見た介護付き有料老人ホームの現状と今後

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特集|介護保険法改正から見た介護付き有料老人ホームの現状と今後

2040年、社会保障費は190兆円に。その中で介護事業者の役割は大きい


-まず初めに、介護業界が置かれている環境についてお聞かせください。

齊藤社長 2040年(団塊ジュニア世代が後期高齢者になる)日本の社会保障費が現在110兆円から190兆円になる推計が出ていますが、もちろんその中では、医療、介護保険のボリュームが大きく占めることになります。さらに、医療と介護を比べた場合、実際には、介護保険がスタートした時から「医療」と「介護」のバランスをどのようにしていくかは、常に議論されてきました。一番判りやすいのは、病院の入院費用で国の医療保険負担は一日3万円程度、一ヶ月入院していると100万円程度かかる訳です。しかし、介護保険の場合は、要介護5でも上限は35万円くらいですから、コストを考えると、全体の給付費を抑えるためにも医療から介護に移行していくのは当然の成り行きだと思います。

少なくとも2040年までは、国の政策の中で介護業界には一定の役割があるはず。


齊藤社長一番のピークは2025年、地域包括ケアの完成、その一方で団塊の世代が後期高齢者になり2040年は団塊ジュニアの世代が後期高齢者になっていきます。そして、2040年が社会保障費全体のピークであり、介護は26兆円の給付費がかかると言われています。だから、いかに医療費を抑えて介護保険費用を手厚くしていくか、それがこれから国の政策として重要になっていくと考えています。

今まで医療保険でまかなってきたことをなるべく介護保険で対応し、社会保障費を抑えることが重要。


齊藤社長もともと医療では、社会的入院が大きな問題でした。その問題を介護事業にシフトさせることによって、長期入院を抑えることが可能になります。 つまり、介護市場は2040年までは拡大すると思います。その後、ゆっくりと市場淘汰が始まるのではないかと見ています。最近は、大手企業の参入が続いていますが、2025年までは、さらにもっと介護市場に参入する企業が増えてくるのではないでしょうか。

-その流れの中で病院を母体としたグループが介護業界などへ直接介入、医療介護グループを形成する可能性はありますか?

齊藤社長それは、すでに大きな流れとしてあるのではないでしょうか。医療介護グループが、老人保健施設や有料老人ホームを持っていたりと、すでに運営はされているようです。逆に言えば、医療グループの方が、より真剣に介護事業のことを考えているのではないかと思います。

多職種連携で「ご入居者様中心」のホーム運営を徹底。


-ニチイケアパレスの営業戦略をお聞かせください。

齊藤社長「リハビリ」や「口腔衛生」等医療的なケアの部分を積極的に行っていきたいと思います。今よりも医療関係者を増やす必要もあると思います。ニチイケアパレスでは、最近、歯科衛生士も入職しています。今、社内の課題は、医療分野の社員が入ってきた時に、彼らが生き生きと活躍できるような社内体制を作ることです。それらを、しっかりと構築していかないといけません。実際、現場にいくと、介護職員と上手くコミュニケーションがとれないとか、あるいは、介護職員は、医療分野にあまり口出しをしない(口出しできない)などの現象も散見されます。しかし、そうではなく、多職種が連携してケアをしていく、ひとつの方向性があって、それぞれの専門職が能力を発揮できるように組織全体をコントロールしていく必要があります。理想は、私たちはあくまで、「ご入居者様の最後の快適な暮らしを提供する」ということ、そこには、当然、医療的なお手伝いもあり、解決すべき課題はありますが、あくまでご入居者様中心のホーム運営というのをきちんと徹底することができれば、それぞれの役割を果たしていけると思っています。

介護保険法改正を受けて ニチイケアパレスの取組。


齊藤社長基本的には、すべての加算に力を入れていきますが、できていないところもあります。私は、厚労省が考える加算報酬に関する考え方は、国として国民を導いていきたいというインセンティブ、方向性であると理解しています。そして、それは、結果としてご入居者様にとっても、よいことなのだろうと。そこから発想していますので、すべての加算に前向きに検討していきたいという考え方を持っています。基本的には利用者の利益を考えた上で、加算に対応することが利用者の利益につながり、さらに、国が目指すべき介護を実現することができると考えています。これから加算を取っていく為には、様々な体制作りや改めて人員配置を行う必要もあると思います。今回は、虐待(身体拘束含む)に関する減算もでてきましたが、あえて減算として焦点を当てているということは、国が虐待に対して細心の注意を払っているのだと思います。できていて当たり前であるべきだと思いますが、業界全体では、虐待に関しては見えない部分もあるということではないでしょうか。

-最近は虐待の話も少なく、昔と比べて身体拘束をしている話など聞く機会も少ないと感じますが、それでも
  このタイミングで減算対象となるのですね。


齊藤社長ニチイケアパレス、ニチイグループでは、介護にかかわる事故は、基準に該当するものすべてを正直に行政へ報告することになっています。ニチイケアパレスでは、ヒヤリハットから報告が上がってきますので、その内容がどういう事故に発展していくのか、ヒヤリハットの時点でアクシデントとして認識し、対策を考えています。

-インシデントとアクシデントの境界の線引きは難しいですよね?

齊藤社長基本的には難しいですね。しかし例えば誤薬などの場合は簡単です。ご入居者様の名前を間違ったら「インシデント」飲ませてしまったら「アクシデント」になります。それが原因で入院などになると「クライシス」という捉え方をしています。それらは線引きしやすいのですが、転倒などの場合、歩く際に本当は誰かの介助が必要なのにひとりで居室を出てしまったらインシデント、躓いて転んでしまったらアクシデントという認識です。それらの認識を合わせると膨大な情報になる。だから会社側から現場へは、ある程度の線引きを行い「これはインシデント、アクシデント」と伝え、内容を共有することを大切にしています。


インシデントとアクシデントの相関関係が重要。


-アクシデントは明確な事故だから報告書が出てきますが、インシデントは意識の問題なので、中々報告書が
  出てこないと聞きます。


齊藤社長報告が出てこないことが意識の低さだと思います。インシデントの報告が上がってくることで、会社として意識のレベルが上がったのだなと実感できると思います。インシデントとアクシデントの数の相関関係をみて、インシデント報告の数が増えてアクシデントの数が減ってくれば、かなり意識が高くなったと考えることができると思います。逆にインシデントの数が増えてアクシデントの数も上がってくるとなると運営の仕方に問題があるのではとの見方もできます。一番問題なのはインシデント報告が上がってこないのにアクシデントの数が増えることです。だから「インシデント報告」の数を上げなさいと伝達しています。去年の事件は当社にとって大きなものでした。そこから様々なことの見直しを行っていく中でやはり、安心安全が最大の使命なのだと。その為にはインシデント・アクシデントに対する意識が高くないと安心安全につながらないですよね。今までコンプライアンスに関しては管理部管轄だったのですが、今年の4月から部門を社長直轄に改め、コンプライアンス推進室として人員も増やし体制も強化しました。毎月1回、リスクマネジメント委員会を本社や各ホームで開き、さらに、「コンプライアンスデイ」という日も設けています。リスクマネジメント委員会で協議された事例を「コンプライアンス通信」として、現場に発信し意識を高め共有していく活動も行っています。また年に何回か「コンプライアンス月間」というものも設けています。大きな会社ですので会社の危機感を現場に繰り返し伝えていく必要があります。



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次号「介食同源」