新・高齢者住宅入門 簡単!誰にでもわかる高齢者住宅の種類と役割(後編)
文:小嶋勝利
前編はこちらからご覧頂けます
新・高齢者住宅入門 簡単!誰にでもわかる高齢者住宅の種類と役割(前編)
第3章 高齢者住宅一覧の補足資料
「高齢者住宅一覧」の中で、特にわかりにくい部分の補足説明です。一覧表と合わせてご確認ください。なお、一覧表内の(カタカナ)は以下のカタカナ表記と連動しています。
(ア)看護介護職員の配置基準
高齢者住宅(施設)には、看護介護職員の配置基準が法により定められている高齢者住宅(施設)と定められていない高齢者住宅(施設)とがあります。入居時に重介護状態の高齢者の場合、配置基準の定められている高齢者住宅(施設)に入居するのが一般的です。
(イ)「公立」とは、地方公共団体、社会福祉法人、医療法人などの公共性の高い機関が設置、または運営している高齢者住宅(施設)を指します。「私立」とは、民間の営利法人が運営している高齢者住宅(施設)を指します。
多くの場合、公立の高齢者住宅(施設)は「施設」と呼ばれ、私立の高齢者住宅(施設)は「ホーム」と呼ばれます。さらに、施設は「入所者」、ホームは「入居者」と呼ばれます。公立→施設→入所者、私立→ホーム→入居者です。
(ウ)「包括介護支援体制」とは、毎月負担する料金は「定額制」で、必要な介護支援は、その都度、受けられる介護体制を言います。今、流行りの用語で言うと〝サブスクリプション〞です。
(エ)「必要に応じて在宅サービスを個別に利用できる体制」とは、単なる在宅介護支援のことです。自分の都合に合わせ、必要な介護支援を必要なだけ受けることができます。ただし、サービスは積み上げ方式なので、介護支援を多く求めると支払い額は青天井で膨れ上がる点に注意が必要です。
(オ)「介護付き」と「住宅型」との違いとは何か。自分(親)は、一体、どちらの有料老人ホームが向いているのでしょうか。介護支援体制は、右記(ウ)(エ)で説明したとおりです。一言で言うなら、重介護状態で、多くの介護支援を利用する必要がある高齢者は「介護付き」を選択、それほど介護支援を利用しなくてもよい高齢者は「住宅型」を選択するのが一般的な考え方です。
(カ)「特養ホーム」と「介護付き」との違いとは何か。自分(親)には、どちらが向いているでしょうか。低料金にこだわり、介護支援の内容や質に〝こだわり〞がない高齢者は「特養ホーム」を選択します。理由は、特養ホームの存在意義は、絢爛豪華なホテルライフの提供ではなく、高齢社会のセーフティーネットとして、たとえ低所得者であったとしても、必要かつ十分な介護支援を提供する使命があるからです。
逆に、自分の個性を尊重し、おもてなし的な介護支援を求めたいのであれば、「介護付き」を選択することになります。そしてその場合は、可能な限り、月額利用料金の高い介護付きを選択するべきです。
(キ)「老健」は、どのような施設なのでしょうか。リハビリの施設だという人がいますが、〝私の知人は認知症で終身入所しています〞という声が聞こえてきそうです。
教科書通りに言えば、老健は病院と在宅とを取り持つ中間施設です。中間施設なので、当然、在宅復帰のためにリハビリを行い、数か月間で在宅に帰ります。しかし、中には、特養ホームとまったく同じような運営をしている老健もあります。ようは、経営者の考え方次第です。例えば、うちは「その他」型と言われる類型の老健でよいと経営者が判断すれば、長期間の入居も可能になります。
(ク)「老健」は、医療対応に強いと言われています。老健は、介護職員だけではなく、医師、看護師、セラピスト、薬剤師、管理栄養士などの専門職の配置が義務付けられています。その点では、医療に強いと言えます。
しかし、現実はというと、医療対応が脆弱な老健も少なくありません。
多くのケースでは、病院併設型(病院を運営している医療法人)が運営する老健は医療対応に強く、単体型(病院ではなく診療所を運営している医療法人)が運営する老健は、医療対応に弱いという傾向があります。また、この事実を別の視点で考えると、病院併設型の老健は、入所者の身体状態が〝深刻〞になった場合、同一法人が運営している病院に入院させることが可能なため、医療依存度が高く状態の悪い入所希望者であっても、思い切って受け入れることができる傾向にあるといえます。
(ケ)「住宅型」と「サ高住」は、何が違うの? 細かいことを言えば、多々相違点はありますが、入居者の立場で生活実態を考えた場合、大きな違いはありません。運営形態は、概ね同じ、という理解でよいと思います。しいて言うなら、料金体系と入居における権利形態が違うということになります。
(コ)重介護者が多く入居しているサ高住は、なぜ存在しているのでしょうか。サ高住では、介護はできないと聞いていますが?
確かに、サ高住のスキームでは、重介護の高齢者のケアは難しいという理屈になります。しかし、冷静に考えてみてください。自宅で重介護者の介護は本当にできないのでしょうか?家族の覚悟さえあれば、在宅診療と訪問看護などの医療介護サービスを併用し、自宅で重介護者の介護をしているケースは、けして珍しいことではありません。
特に、身体的な介護ケアは自宅でも十分に対応が可能です。したがって、この理屈で考えれば、サ高住であっても、当然、重介護者の対応は可能です。最近では、特定の疾患に特化したサ高住も登場しています。
(サ)「介護付き」は、自立から入居可能な高齢者住宅(施設)と要介護認定がなければ入居できない高齢者住宅(施設)とがあることに注意ください。例えば、夫婦で入居する場合、どちらかが自立であれば、自立の入居者を可とする介護付きでなければ夫婦で入居はできません。なお、夫婦の場合、一方が自宅、一方が高齢者住宅(施設)の場合、経済的な負担が思った以上にかかるケースもあります。
番外編(その他の補足説明)
●「介護付き」であっても、月額利用料金が、特養ホーム並み、または特養ホームより安い介護付きもあります。この場合、介護支援の内容は、高齢社会のセーフティーネットであると理解してください。
つまり、必要最低限の介護支援か個別性を重んじるおもてなしの介護支援かは、とどのつまり料金次第だということになります。
●個別の事情を考慮してくれる高齢者住宅(施設)は、よい高齢者住宅(施設)ですが、料金も高いということになります。また、この「品質」は、全入居者にとって、必ずしも「よい」というわけではありません。むしろ、この丁寧な個別性に基づく介護支援を「煩わしい」と考える高齢者も少なくありません。
つまり、人が人に求める介護支援は、十人十色です。自分にとって本当に必要な介護支援を提供してくれる高齢者住宅(施設)を探すことが重要なのです。つまり、必要最低限のことさえやってもらえれば〝OK〞という高齢者の場合、仮に支払い能力が高くても、あえて低価格の高齢者住宅(施設)を選択した方が良い場合もあるということに注意ください。
●高齢者住宅(施設)に入居する場合、入居審査、または入居判定があります。つまり、誰でも希望をすれば入居ができるというわけではありません。公立私立を問わず、多くの高齢者住宅(施設)では、入居申し込みに対し、その入居者を受け入れるかどうかの判定を実施しています。そして、その判定に必要な資料として「健康診断書」主治医作成の「診療情報提供書」、入院している場合は「看護介護サマリ」などの提出が求められます。
これらの資料を基に、高齢者住宅(施設)側は、このような高齢者を今の体制(職員と既存入居者との兼ね合い)で受け入れても大丈夫かどうかという検討を行い、「問題なし」と判断した場合は受け入れになります。
ちなみに、高齢者住宅(施設)側の受け入れ体制表に〝胃ろうは「〇」〞などとなっているにもかかわらず、断られるというケースもあります。これは、例えば、今までは看護師が3名いたので、胃ろうの入居者の受け入れは「〇」でしたが、今月末で看護師が1名退職するので、新規の看護師の獲得ができるまでは胃ろうは「×」という部分変更が生じるからです。高齢者住宅(施設)では、このようなことは、日常茶飯事に起きています。
(おわり)
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