みんかい | 民間介護施設紹介センター

特養ホームに異変あり 特別養護老人ホームに「多床室」が増えないわけ

特養待機者の多くは「多床室」

しかし、新規のほとんどが「個室」

待機者が多いのにも関わらず、「多床室」ができないのはなぜか

老人と家

平成29年度、「厚生労働省特別養護老人ホーム入居申し込み者の概況」によると、特別養護老人ホーム(以下、特養)の入所申込者は、全国で29万2千人。平成27年に、特養の入居要件が「要介護1以上から要介護3以上」に引き上げられたことにより待機者の数は以前より減少しているものの、相変わらず多くの方が待機をしている状況です。

しかし、巷の特養を取材してみると「ユニット型個室」では「空室」が目立つところもあります。ある自治体が行った調査では、特養の待機者の約50%が「費用の安い多床室」を希望していることが報告されています。にもかかわらず、なぜ従来型の「多床室」が増えないのでしょうか?

ユニット型の利用料は、多床室の約2倍

国は、入居者の尊厳を重視したケアを実現するために全室個室・ユニットケアを推奨し、2025年までにユニット型の割合を70%にするという目標を掲げていまます。しかし、「ユニット型個室」は、「多床室」に比べ居住費が高く費用の負担が大きいため「多床室」限定で待機している人が多いのが実状です。

首都圏の要介護者の受け皿として施設が増えている埼玉県内のある特養の一ヶ月の利用料は、第3段階の要介護5で、ユニット型は129,737円、多床室は68,179円(加算、実費負担は除く)、約2倍ほどの差があります。ユニット型の特養は、ご自身の年金受給額の範囲内で入居できる施設を希望する方や、低所得の方には入居しずらい金額でしょう。

改善策は提示されたものの

東京都では、利用者負担能力への配慮を望む声を受け、平成22年度から新規のユニット型での整備を基本としつつ、定員の3割以内の多床室への補助を打ち出しました。しかし、多床室を整備するための補助を受けるためには、左記の条件を示しています。

【条件1】:地域における特別な事情があり、合理的な理由があること。また、協議書提出時に区市町村長名による意見書の提出が必要。

【条件2】:多床室は増加定員(特養+併設ショート)の3割が上限。ただし、従来型個室は、3割制限の対象外。ただし、基本はユニット型整備。

【条件3】:条件2に加え特養部分の増加定員の3割が上限。

さらに、ユニット型と従来型(多床室)の両方を整備する場合には、別々に認可・指定を受けること。また、地域密着型の特養は都補助の対象外としています。ここだけを見ると、「行政的には『多床室』は作りたくないのかしら?」と思ってしまいます。

家とお金

多床室が増えないわけは国の方針と介護報酬の安さ?

いくつかの特養に「多床室を増床、または、新規で多床室を作る計画はありますか」と言う質問をしてみました。すると、ほとんどの回答が「計画はありません」でした。その理由を聞いてみたところ

・多床室は介護報酬が低い。

多床室介護報酬基本単価:890単位(要介護3)、ユニット型介護報酬基本単価:903単位(要介護3)。

・自治体の公募が「ユニット型」のみで、従来型(多床室)の公募がないため新規で開設できない。

ほとんどの回答が右記の2点でした。

ほかには、2040年を境に高齢者数が減ることを考えると、数十億の借り入れをして介護報酬の少ない多床室を新設したところで、返済できるかが不安。多床室の入居者は、家族との関係が希薄な方も多く、家族協力が見込めないため、職員の負担が増える。混合型(ユニット型+多床室)で申請を出したが、ユニット型のみにしてほしいと自治体から指示があった。という声もありました。

家と電卓

特養の多床室難民にならないために

国はプライバシーや個人の尊厳を守ることに重点を置いた、ユニット型個室特養の整備を推進しています。プライバシーが保たれた個室という空間は、自宅で生活する快適さには及ばないものの、それに近い環境で生活できるでしょう。しかし、ユニット型は利用料が高く、肝心な利用料が支払えなければ入居することすらできません。

さらに、今年(2021年)の8月から、低所得者への補助給付が軽減され、食費が今までの約2倍となったばかりです。

参考:特養ホームに異変あり 特養入所者が支払う1ヶ月の食費が一気に2倍以上の値上がりに

2000年の介護保険制度のスタート時には、特養の食費と居住費は保険料から支払われていて、自己負担貴は0円でした。しかし、その後2005年には、食費と居住費が全額自己負担(住民税非課税世帯には補助給付)。その後も資産がある人は補助給付の対象外になるなど制度の見直しが行われていて、介護保険制度の改正の度に、特養の補助給付が見直されることになれば、利用者の負担は増すことになります。

セイフティーネットの役割も担っている特養ですが、国の方針が変わらない限り、この先、多床室が増えることは難しそうです。

介護はいつ必要になるか解かりません。多床室難民にならないためにも、元気なうちから老後のライフプランを考えておいた方が良さそうです。

文:介護ライター黒川玲子

株式会社ケー・アール・プランニング:https://kurokawa-reiko.com/

  

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