みんかい | 民間介護施設紹介センター

特養ホームに異変あり
特養入所者が支払う1ヶ月の食費が一気に2倍以上の値上がりに

電卓を見て悩む女性の写真

第3段階②の該当者に起きた悲劇
毎月 支払う食費が21,300円も負担増に(30日換算)


 「毎月2万円以上も食費が値上げになったなんて。親の年金だけじゃ支払えません!」全国各地の特別養護老人ホーム(以下、特養という)に入所中のご家族から、悲鳴にも似た声が聞こえてきていることをご存じでしょうか?

 昨年8月に施行された介護保険制度の見直しにより、特養を含む介護保険施設やショートステイの食費を補助する「補足給付」が見直され、一部の利用者が支払う食費の自己負担額が大幅に増えました。

 以前のコラム「特養ホームに異変あり。資産があると、たとえ、収入が少なくても、特養ホームに入れない!?」では、昨年の7月までは補足給付の対象者だった方が、8月の補足給付の資産要件(預貯金等)の見直しにより預貯金額が基準を超えてしまったため、負担限度額の認定対象外となり、特養への入所を諦めた方の事例を取り上げました。

 国は、「在宅で介護生活をしている方との負担の公平性をさらに高めるため」と理解を求めていますが、対象となった家族からは、困惑の声や支払いに関する相談が上がっています。今回は、毎月の食費が一気に2倍以上に増えたことで、特養の現場で何が起こっているのかをリサーチしました。

1ヶ月の食費が一気に2倍に!

電卓と木製の家のおもちゃの写真


 今回、食費の補助給付の見直しの対象となったのは新設された所得区分「第3段階②」に該当する方です。世帯全員が市町村民税非課税で、本人の公的年金収入額+その他の合計所得金額が120万円超。資産が単身で500万円以下、夫婦で1,500万円以下の要件を満たす方です。厚生労働省によると対象者は全国で約27万人と発表しています。

 では、実際にどのくらいの負担増になるのでしょうか。昨年7月までは、特養に支払う食費は1日あたり650円でしたが、8月からは1,360円と約2・1倍になりました。これを1ヶ月(30日)で計算すると40,800円。毎月支払う食費は21,300円も跳ね上がり、年間で換算すると約26万円。第3段階②の該当者の2ヶ月分の年金に相当する金額です。

 ショートステイにおいては、第2段階、第3段階①も食費の値上げの対象となりました。第2段階は390円から600円。第3段階①は650円から1,000円。第3段階②は650円から1,300円に変更となりました。特養に併設されているショートステイは民間が運営するショートステイより滞在費が安いため、在宅で介護をしている家族にとっては利用しやすいサービスでした。

 昨年の4月には、多くのデイサービスで食費の値上げが行われたばかりで、8月にはショートステイの食費まで値上げになり、在宅で介護を受けている人も負担増となりました。

 ちなみに。補足給付対象外の第4段階の食費・居住費については、各施設で設定する金額になりますが、食費の基準金額についても、1日あたり1,392円から1,445円に引き上げられました。

入所者からは悲鳴の声、現場では混乱と困惑


 「親の年金だけでは支払えません。どうしたらいいのでしょうか?」施設には、補足給付見直しの対象となった入所者の家族から、多くの相談が寄せられたそうです。

 なかには、「いきなり1ヶ月の食費が2万円以上も値上がりするってどうゆうことですか!」と、大変険しい口調で問い合わせる方や、事前に、食費の値上げになることを口頭で説明をし、ご理解いただいたはずだったにも関わらず、「今月の利用料間違っていませんか?」と請求書を見て連絡をしてくるご家族もいたそうです。

 ある特養では、
―今回の食費の値上げの対象となったご家族からは、「どうして?」「なぜ?」というお問い合わせをいただきました。介護保険の改正に伴う値上げであり、施設が決めたことではないことをご説明すると、ほとんどの方が「仕方がないですね」とご納得いただくことができましたが、ある方は「母はもともと少食で、いつも食事は残していると聞いています。食事の量を半分にして、その分食費も半分にしてほしい」というご意見もありました。

 また、別のご家族からは、「支払いを分割にしてほしい」というご相談もありましたが、どちらも丁寧にご説明し、ご納得いただきました。改正直後は、多くの特養事務担当者は電話対応に追われていたようです。

利用料の支払いが厳しくなった入所者は?


 では、食費の値上げにより支払いが厳しくなった入所者はどうしたのでしょうか?

 年金額だけでは支払えず預貯金もないため「退去します」と連絡あったご家族のケースです。入居していた特養が、「利用者負担軽減制度事業」(※)を実施していたため、役所へ相談へ行くようにすすめたところ、要件を満たし制度の対象者と認められたため退去せずに、特養での生活を続けられることになりました。

 また、ユニット型と多床室を運営している特養では、支払いが厳しいと申し出た入所者へ多床室への移動を提案したそうです。ご家族から了解をいただいた入所者に対しては、多床室への移動までの期間、食費の請求額は変更せず、差額分は施設が負担しているそうです。

(※)社会福祉法人等による生計困難者等に対する介護保険サービスに係る利用者負担額軽減事業。決められた要件をすべて満たす者のうち、生活が困難な者として市区町村が認める者に対して軽減措置を行う事業。

家族がどこまで理解できているかという不安も

説明を受ける高齢者女性の写真


 従来型個室と多床室を運営している特養ではこんな事例もありました。

 第3段階②に該当した方のほかに、資産要件の変更に該当した方がいらっしゃいました。今までは第3段階で負担限度額の対象者でしたが、預貯金額が1,500万円を超えていたため第4段階に変更になり負担限度額の対象から外れてしまいました。該当した方は、居住費、食費の補足給付が受けられなくなったことで、月額利用料は約55,000円の負担増となりました。

 特養の担当者は「対象となった方のご家族は、独居で生活されている配偶者の方のみです。ご説明はいたしましたが、今回の値上げをどこまでご理解できているか不安です」と、利用料が増えたことで、在宅で生活をされている配偶者のことも心配していました。

 私が取材したかぎりでは、退去された入所者はいませんでしたが、多くのご家族が新たに多床室への申し込みをしていました。しかし、いつ入居の順番が回ってくるかはわかりません。増額分を預貯金を取り崩して支払っているご家族からは、「いつまで貯金がもつか不安」という声が多く聞かれました。

どこまで増える?介護保険の負担増


 2000年、介護保険が発足した当初、特養入所者の食費と居住費は介護保険の給付に含まれていました。つまり、実質0円でした。ところが、2005年「ホテル宿泊時には食費と部屋代も支払うのだから同じように支払うべき」との考え方から、全額自己負担となりました。しかし、「負担額が大きすぎる」ということから、低所得者(住民税非課税世帯)への負担を軽減するために導入されたのが「補足給付」です。

 その後、2014年には「資産要件」が加わり、負担限度額認定申請時(更新時も含む)には、銀行の預貯金額がわかる通帳のコピーや有価証券のコピー、タンス預金の額までを提出しなくてはならなくなりました。タンス預金の額を申請したら、補足給付から外れてしまう方が、正直にタンス預金の金額を提出するとは思えませんが、資産要件にはタンス預金まで含まれています。

 さらに、改正前までは世帯分離をすることで、夫婦どちらかの年金額の低い方は補足給付が受けられていました。当時、多くの入所者がこの制度を利用するために、世帯分離をして特養に住所を移していました。「特養の利用料を安くする裏技」と呼ばれていたほどです。しかし、2014年の改正により課税世帯であれば補足給付の対象から外されました。

 例えば、入所者の年金収入額の合計が80万円以下だとしても、配偶者の年金収入額が155万円以上で課税世帯であれば、補足給付は受けられなくなったのです。このように改正のたびに、入所者の負担は増えているのです。 

 2021年の介護保険改正概要には「ケアマネジメント有料化」「訪問介護における生活援助を介護報酬からはずす」「介護保険料の負担年齢を40歳から30歳以上に引き下げ」などが含まれていました。しかし、新型コロナウイルスの影響を鑑み先送りされましたが、次回は改正されることになるかもしれません。

 今後も高齢者の数は増え続け、増大する介護事業費の抑制のため、利用者の負担が増えてくるでしょう。今年の4月からは一定以上の年収のある高齢者の病院の窓口負担の引き上げが決定しています。

 「金の切れ目が介護の切れ目」にならないよう。自助努力が必要な時代になったようです。

文:介護ライター黒川玲子
株式会社ケー・アール・プランニング