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特養ホームに異変あり 特養が満床になりにくくなった理由を探る

特養ホームに異変あり 特養が満床になりにくくなった理由を探る

「特養は利用料が安い」は神話になった?
特養より安い介護付有料老人ホームが増えている

 特別養護老人ホームは、「待機者数が多くて、簡単に入居の順番が回ってこない」と思われている方も多いのではないでしょうか?

 ところが、地域によっては開設したものの、数年が経過しても満床にならず、入居者集めに苦戦されている特養がかなりあるようです。

 少し前の情報になりますが、みずほ情報総研が2017年に発表した「特別養護老人ホームの開設状況に関する調査研究」によると新規オープンした特養のユニット個室の入居率は62.4%と、7割に満たない状況です。

 満床にならない理由は、「職員不足で入居者を受け入れられない」「地域の高齢者数が減少しているため」など様々な理由が考えられますが、入居者を集めるために、施設長自らが、都内の病院や居宅介護支援事業所などに営業に行っている、入居者を集めるためのコンサルを入れているなどの対策を取っているところもあります。

 今回は、ある特養の相談員が呟いた「近隣に、ここ(特養)より利用料の安い介護付有料老人ホームができてから第4段階の方の申し込みが減っているんですよね」の一言が気になり、実態をリサーチしました。

意外と高いユニット型の特養の1ヶ月の利用料

 なぜ、特養が満床にならない事態が生じているのでしょうか。様々な要因がありますが、その理由の一つにユニット型特養の利用料があると考えられます。ユニット型の特養はすべて個室のため、建築コストがかさむので部屋代が高く設定されています。したがって1ヶ月の利用料は多床室に比べて高くなってしまいます。
 では、どのくらい利用料が必要なのか、ある特養の場合で見てみましょう。

【ユニット型の場合】
・第3段階①(要介護3)86,000円
・第4段階(要介護3)157,000円
※30日換算、100円単位切り上げ。医療費、理美容代等は含みません。
 補足給付(★)を受けられない第4段階の方と補足給付を受けている第3段階①の方との利用料の差額は、
 月々71,000円。特養の相談員の言うことが解かります。
 参考のために、多床室の利用料もご覧ください。

【多床室の場合】
・第3段階①(要介護3)64,000円
・第4段階(要介護3)102,000円
※30日換算、100円単位切り上げ。医療費、理美容代等は含みません。

★特養の利用料は、負担限度額認定を申請することにより、補足給付の対象となった方は利用料が安くなります。
補足給付の対象となる方は、住民税非課税世帯で、預貯金額は単身500万円以下、夫婦1,500万円以下の方。
年収と預貯金額により第1段階、第2段階、第3段階①、第3段階②に分けられ、それぞれ給付額が異なる仕組みです。住民税課税世帯の方は、補足給付の対象外(第4段階)となります。

特養より安い介護付有料老人ホーム

家の模型と電卓の写真

 特養の第4段階の利用料より安い介護付有料老人ホームがあるという相談員の一言をきっかけにリサーチを開始したところ、都内やその近郊にもかなりあることが解かりました。その中から取材をさせていただいたいくつかをご紹介いたします。

【Aホームの場合】


 居住費、食費、共益費(水光熱費、管理費等)介護保険1割負担(要介護3)=150,000円
※30日換算、100円単位切り上げ。医療費、理美容代等は含みません。Aホームは、入居時に敷金(約16万円)が必要です。

 場所は都内。それも、駅から徒歩圏内でこの価格です。もちろん、全室個室でトイレ付(ユニット型特養の中には、居室にトイレが設置されていない場合が多い)。施設内に厨房もあり、できたての食事が提供されています。
 プラスのサービスとして協力医療機関への通院の送迎や近隣であれば日用品の買い物代行も無料です。では、なぜここまで利用料を抑えられるのでしょうか?

 どうやら、建物に秘密があるようです。他の物件からの転用の建物です。全館リフォーム済みですが、ところどころに階段があります。もちろんすべてスロープ対応はしていますが、オールバリアフリーとはいきません。また、基準の平米数は満たしていますが、特養に比べると若干お部屋が狭いと感じるかもしれません。

【Bホームの場合】


 居住費、食費、共益費(水光熱費、管理費等)介護保険1割負担(要介護3)=119,000円
※30日換算、100円単位切り上げ。医療費、理美容代等は含みません。

 多床室並みの利用料に驚かないでください。6ヶ月限定のプランです。
 特養待ちの方を対象にしたプランのため、価格を安く設定しているそうです。

 このプランで入居した方の多くは、その後通常プランに切り替える方が多いそうです。入居金0円プランでも、月々の利用料は約166,000円(介護保険1割負担・要介護3) こちらも駅から徒歩圏内、築年数は古いですが
しっかりと手入れがされているので、あまり古さを感じることはありません。

 施設内に厨房があり、協力医療機関であれば通院の送迎無料、日用品の買い出しも無料です。オープン当初からのスタッフも多く介護力に定評のあるホームです。

 このほかにも、キャンペーン期間中に入居した場合は、月々の利用料が約152,000円(介護保険1割負担・要介護3)というホームもありました。

厚生年金の平均受給額で入居できる そんなホームが増えていく

老人ホームの介護職員と入居者の手の写真


 令和2年度の厚生年金の平均受給額は146,145円。住民税課税世帯となるため特養の補足給付の対象外となります。ユニット型特養に入所した場合の利用料は157,000円。残念ながら、年金額より1ヶ月利用料の方が高くなるのです。

 このような状況を受け、年金金額内で入居が可能や低所得高齢者をターゲットにした安い利用料を売りにした介護付有料老人ホームが増えています。

 今回取材したホームの一つは、「比較的所得の低い高齢者でもご入居いただけるよう、利用料を低く提供させていただきます。利用料は安くても、ケアの質は落としません。特養には負けられません」と、意気込みを語っていました。

 すでに、比較的利用料が安く、自由度の高いサービス付き高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームが増えています。「特養は安い」の神話は崩れてしまうかもしれません。


文:介護ライター 黒川玲子
株式会社ケー・アール・プランニング:https://kurokawa-reiko.com/