有料老人ホームに求めるもの
現在の有料老人ホームを見ていますと、ベースとなる種別(介護付き有料老人ホーム/住宅型有料老人ホーム/サービス付き高齢者向け住宅/グループホームなど)を基として更に細分化されているように感じます。
・パーキンソン病の診断を受けられた方のみを対象とした有料老人ホーム
・人工透析をされている方のみを対象とした有料老人ホーム
・リハビリに特化した有料老人ホーム
・医療対応特化型の有料老人ホーム
※特定疾病(16特定疾病)や訪問看護における別表7の疾病(厚生労働大臣の定める疾病等)、また別表8(厚生労働大臣が定める状態等)のみを入居対象としているホーム
・介護認定で『要介護①以上』や『要介護③以上』の対象者のみを入居対象としているホーム
などなど、その方のご状態により細かくなっているのです。
それぞれ運営するホームの思惑があり利用者の欲求と合致したことで成り立っているように思えますが、今回は運営するホームの思惑というより利用者(ご家族)の“欲求”に絞って考えてみたいと思います。
最近のご相談は特に要求が細かくなっているように思えます。
・父は自然の環境が大好きだから山や野原が見渡せるホームを探して欲しい
・昔のように威厳があって元気だったころに戻って欲しいからリハビリを毎日して欲しい
・野菜は一切口にしない偏食だからそのオーダーを叶えてくれるような個別の食事を用意して欲しい
・母は散歩が趣味なのだが認知症で外に出かけたら帰ってこられないので毎日散歩に付き添って欲しい
・定期的に特定の病院に通っているのでしっかり通院同行してくれるホームを探して欲しい(もちろんサービスで)
などに始まり、100個の相談があれば100通りの欲求があります。
ホームへの依存が強くなっているのは理解できるのですが、ホームの都合も考えなければなりません。お金で解決できる欲求もあれば、そうでない場合も多分にあるからです。
介護を任せる側、介護を受ける側、双方の立場を尊重しながらコミュニケーションを図って譲歩し合うことが望ましいと思っています。
人の欲求は5段階のピラミッドのように構成されているとする心理学理論を唱えたアメリカのアブラハム・マズロー(1908~1970)という心理学者がいます。
人間性心理学の生みの親と称され、今でもビジネス上で当てはめられる理論だそうです。介護の分野でも昔から使われ、介護福祉士の国家試験にも出題されたほどです。
このように書いている私自身が完全な理解をしている訳ではありませんが、私なりに感じ取っている最近のお客様の傾向とマズローさんの『欲求の5段階説』を照らし合わせてみます。
マズローさんは人間の欲求を5段階に分類しピラミッドに見立てて振り分けました。
理屈としては下層の欲求が満たされないとその上層の欲求が生まれないという論を定義づけたものです。
第1階層(最下層)→生理的欲求
生きてゆくための本能的な欲求(食事/睡眠/排泄など)のことです。
人間はどんな時でもまず何よりこの欲求を満たしたいと願うものです。
これをホームで言うところの『有料老人ホームの最低限の生活環境』と言えるのではないでしょうか?昔で言う養老院のように集団で生活するうえで衣食住の確保ができていることで最低限の欲求が確保できる環境です。
第2階層→安全の欲求
危険を回避して、安全で安心した生活がしたいという欲求のことになります。
心身共に健康で経済的にも安定した生活が送りたい・・そこに身を置きたいという欲求です。
私はこれをホームで言う『介護職員の配置』『看護職員の配置』と考えます。
少なくとも独居で生活しているより、何かあった時に手を差し伸べてくれる、適切な対応が得られる安心感がホームの中にはあります。
※この第1階層と第2階層が【物理的欲求】と位置付けられます。
有料老人ホームの最低限のハード/ソフト面にあたるからです。
第3階層→社会的欲求(所属と愛の欲求)
集団に所属したり、仲間を求めようとする欲求です。この欲求が満たされない時、人は孤独感や社会的不安を感じやすくなります。物理的なものでは満足が得られない・・という特徴がある層です。
このホームに入居していると言うステータス感をはじめ、そこで行われているアクティビティ(レクリエーション)を通してできる人との関わりや仲間意識が該当するのではないでしょうか?『リハビリをしたい』『好きな囲碁をしたい』『カラオケ仲間を作りたい』など、入居者同士、若しくはそこで働く職員さんたちとの関わりを通して感じられる満足感です。
第4階層→承認欲求
社会の中で自分の個性を見出したい、所属する集団の中で高い評価を得たり尊重されたいという欲求です。その評価を得ようとするモチベーションや原動力にもなると言われているようです。
ここでふと有名なリハビリ病院のDrの言葉を思い出しました。
「リハビリをさせたいのは家族のエゴであって、本人がやる気にならなければどんなに有能なリハビリ専門職の人が対応したとしても効果は得られない」という言葉です。
私は当時、その言葉に「Drがそんなこと言ったら元もこうも無いでしょ」と思いながら強いショックを受けましたが、その対象者は大腿骨骨折の手術以降は車椅子生活を余儀なくされました。確かに気力が根源に無ければ何をやっても難しいものだな・・と思ったものです。そこに「よし、自力で歩けるようになって好きな旅行に行ってやる!」とか「元気になって周囲の人たちをビックリさせてやる!」「まだまだここで終わるわけにはいかないぞ!」などの気力や目標が欲求となっていればまた違った結果があったのではないかと思いました。
第5階層→自己実現の欲求
これが最上階層の欲求です。1~4階層が満たされた時に自分の心の中に秘めている可能性や使命の達成を目指す欲求になります。自分自身の向上とも言えます。
以上の5段階を今のホームに当てはめると現実的には第3階層である社会的欲求(所属と愛の欲求)までたどり着いているイメージがあります。
その上を目指す場合、今より更に濃密な個別対応が必要となり、介護職員の人員体制で例えると、特定施設(介護付き有料老人ホーム)の基準【3人の利用者に対し1名の看護・介護職員】の配置では間に合わず【1:1】のマンツーマン体制ほどの関わり合いが必要になってきそうですね。
先に書いた『毎日散歩に付き合って欲しい』『好きな病院に行きたいので同行してほしい』『自分の好きな食事だけを調理して欲しい』などの欲求を満たすことは現状ではほとんどの有料老人ホームでは『できる事なら叶えてあげたいのだが実際は難しい』という結論に至ってしまうのではないでしょうか?
介護をする側、介護を任せる側、双方の歩み寄りがあって初めて快適な生活が営めるものだと思っています。
その調整に我々が少しでも関われればと願っております。
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