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新・高齢者住宅入門 簡単!誰にでもわかる高齢者住宅の種類と役割(前編)

文:小嶋勝利

新・高齢者住宅入門(前編)タイトル

はじめに

 介護業界の専門家であっても、高齢者住宅(施設)の違いは、分かりにくいものです。
それは、高齢者住宅(施設)のルールが入居者や利用者の立場ではなく、事業者や行政など供給側、管理者側の立場で制度設計されているからです。

 例えば、特別養護老人ホーム(以下「特養ホーム」という)の中には、「地域密着型」というものがあります。これは、同一の市区町村に居住している人しか入所できない特養ホームのことを言います。

 つまり、たとえ空室があっても、他の市区町村の住民では入所することができません。よく考えてみて下さい。日常生活の中では、隣町が自分の生活圏になっているケースは、けして珍しいことではありません。しかし、この部分を制度は無視しています。

 また、サービス付き高齢者向け住宅(以下「サ高住」という)であるにも関わらず、「特定施設」の指定を受けているサ高住があります。事業者に説明を求めると〝介護付き有料老人ホーム(以下「介護付き」という)と同じルールで運用可能なサ高住です〞と説明されます。だったら、最初から介護付きでいいじゃないか!と言いたくなります。

 さらに、一番厄介な話は、有料老人ホームの場合、「介護付き」と「住宅型」の2つの老人ホームが、ほぼ同一機能で並走しています。ちなみに、有料老人ホームには「健康型」という有料老人ホームもありますが、今回は触れません。 本来、「介護付き」は、特養ホームでは満足できない高齢者のために存在します。

 さらに「住宅型」は、介護付きでは満足できない高齢者のために存在しているはずです。つまり、各カテゴリーには、各カテゴリーに課せられた使命や役割があり、その役割が求められているはずなのですが、実際の運用はというと、簡単に入所者や入居者を集めることができる機能にすべてのカテゴリーが注目し、その機能しか見ないため、結局、どのカテゴリーでも提供しているサービスは〝同じ〞という現象が起きています。

 したがって、特養ホーム、介護付き、住宅型の3つの高齢者住宅(施設)では、運用実態ではなんら大差はなく、料金と立地で区別するしかないのが実際なのです。なお、最近では、立地や料金においても、各カテゴリーが互いの領域を侵食しているため、区別が難しくなりつつあります。

 つまり、高齢者住宅(施設)は、運営上、各カテゴリー別の役割や使命が不明確なのです。入居者や入所者の立場で考えた場合、今のような運営では、複数の役割やカテゴリーが本当に必要なのでしょうか?ということになります。

 私は、「老人ホームの探し方」をテーマにセミナーをすることもあるのですが、参加者から「今、あなたが説明した住宅型は間違っている。うちの旦那は入居していたので、私はよくわかっているけど、そんなルールじゃなかった」と言われることがしばしばあります。この言い分は、実によくわかります。

 なぜなら、多くの住宅型は、事業者側の自助努力で、住宅型の欠点をカバーし、介護付きと同等のサービスを提供するようにしているからです。何度も言います。だったら、最初から介護付きとして開設すればいいではないかと。入居者目線で考えればそうなります。

 今回の「新・高齢者住宅入門」は、このわかりにくい高齢者住宅(施設)について、情報を可能な限り限定し、例外はできる限り無視することで、本来の役割やあるべき姿という視点で作成しました。後述の「高齢者住宅一覧」は、この思想に基づき作成しています。したがって、一部の現象は無視しています。さらに、一部の現象だけを切り取って強調もしています。理由は、複数のカテゴリーが存在し、並走している以上、各カテゴリーはカテゴリーに課せられた本来の使命があると考えているからです。

 もし、すべての高齢者住宅(施設)が同じ機能や役割でよいということであれば、複数種類の高齢者住宅(施設)など不要です。ひとつに整備し直し、入居者や入所者にとって利用しやすく、わかり易いものにすればよいだけの話だと思います。

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第1章 足るを知ることが大切

 高齢者が高齢者住宅(施設)に入居するという行為は、はたして、正しい選択と言えるのでしょうか?この問いは、私が、この業界に入ったその日から今日(いま)に至るまで、常に考え続けているテーマでもあります。そして、今だに「これだ!」というすっきりとした回答は見いだせずにいます。

 旧知のケアマネジャーが言います。認知症で問題行動がある親を、在宅(自宅)で家族が面倒を見るなど不可能だと。家族にも自分たちの生活があるのだと。また、別の旧知のケアマネジャーは言います。多少、難はあっても、在宅にいる独居や老老世帯の要介護高齢者は、実にたくましく今を生きていると。しかし、高齢者住宅(施設)に入居すると、あっという間にADLが落ち、できないことばかりになってしまいます。油断をするのか、安心するのかは、わかりませんが、結果的に本人のためにはなっていなのではないかと考えます。

 前者は、家族を主語にして考え、後者は当事者を主語にして考えた場合の切実な感想です。どちらも「正論」ではないでしょうか。さらに言うと、介護は家族がやるべきものなのか、それともプロの介護事業者に任せるべきものなのか、という問いもあります。

 今の私の回答は、介護は、家族と事業者が協業してやるものであり、その時の注意点は、お互いに相手に多くを求めてはいけないということを理解することです。親は、あなたにとっては、唯一無二の存在ですが、介護事業者にとっては、多くの利用者の中の一人に過ぎません。つまり、介護サービスを利用するということは、お互いに〝わきまえる〞そして〝足るを知る〞ことが大切なのです。

第2章 高齢者住宅入門

 高齢者住宅(施設)は、大まかに言うと「公立」と「私立」があります。公立は、特養ホームなどの介護保険施設を指します。私立は、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などを指します。公立と私立の違いは、高校や大学など学校を例に考えるとわかりやすいと思います。学校には公立学校と私立学校とがあります。

 皆さんは、どのような基準で学校を選んでいるでしょうか?よく聞く話としては、「学費の負担が大変なので公立大学に進学して欲しい」とか「子供の個性を伸ばすためには私立の学校へ行かせたい」とか「大学進学に有利だから付属の私立高校がよい」とかという話です。

 これを高齢者住宅(施設)に当てはめてみると次のようになります。「年金が少ないので特養ホームを希望したい」とか「うちの親は、我がままで自己中心的な性格なので、職員配置数が手厚く、おもてなしの思想がある私立の有料老人ホームの方が向いている」とか「今は元気だけど、万一、介護状態になったら、系列の介護付き有料老人ホームへの入居が保障されている私立のサ高住を探そう」という具合です。

 ちなみに、この話は主に大都市圏に限った話です。学校も同じだと思いますが、地方の場合、公立学校の中にも個性的な有名校や名門校がたくさんあります。理由は、私立の学校がそれほど多くないため、公立学校が私立学校の役割を担っているからです。高齢者住宅(施設)も同じです。地方の場合は、多くの要介護高齢者は、私立の有料老人ホームが少ないため、個性的な公立の特養ホームやグループホームなどを選ぶことになります。

 つまり、高齢者住宅(施設)には、それぞれ独自の個性や文化が存在します。多くの場合、経営者の理念であったり、長年の運営で培ってきた体験や気づきを見える化した方針がそれに当たります。私は、これを介護における流儀と流派だと説明していますが、実は、この部分が一番重要な部分なのです。

 ここで一つだけわかり易い例を挙げておきます。ここ数年、コロナ過でもあり、多くの高齢者住宅(施設)では、「外出/外泊の禁止」「面会の禁止」にしてきました。しかし、外出も外泊も面会も継続していた高齢者住宅(施設)もあります。この考え方や方針が〝流派〞です。

 つまり、コロナに感染することと、ホーム内に一人で閉じこもってフレイルティーになってしまうこととを考え、ある高齢者住宅(施設)は、感染を封じ込めることを最優先し、ある高齢者住宅(施設)は、入居者がフレイル状態になることを感染よりも重要視した、ということです。

 どちらが正しいかは、当事者である入居者やその家族が決めるべきものです。皆さんの流儀、流派はどちらでしょうか?

ウォーキング・運動する高齢者夫婦の後ろ姿

(後編につづく)