老人ホームでの食事
「食事」は生きていくために、欠かせないものです。どんな人でも、健康であれば、お腹がすきます。好きなものを食べている時は幸せ以外のなにものでもありません。今回のコラムは、『生きる活力』『生きる源』である「食事」について話を進めていきます。
2つの食事役割りとは。
食事には、2つの役割が備わっていることが必要です。その1つは、その食事を食べる人の健康を維持・増進し、また疾病の予防・治療に必要な栄養素を過不足なく提供するという栄養学的側面の役割です。もう1つは、その食事が食べる人の食習慣や食文化をみたし、おいしく食べることで心の豊かさや満足感をもたらすとともに、人間関係やコミュニケーションの形成に役立つなど、食べる人のQOLや社会性を高める側面の役割です。高齢者にとって食事とは、必要な栄養を摂取するだけでなく、生きがいや生活リズムを感じるための重要な行動です。
食べるメカニズムとは
そもそも「食べる」という行為そのものは、「食べ物を認知する」→「食べたいと思う」→「食べ物を口に運ぶ」→「咀嚼する」→「飲み込む」といった連続の動作から成り立っています。しかしながら「食べる」ことは、単に経口的に「食物を摂取する」あるいは「栄養を摂る」という意味だけには留まりません。
「食べる」ことは、精神的健康感にも大きく影響し、美味しい、楽しいといった充足感、あるいは食事を介しての家族や社会とのつながり等により、自分自身を大切にしたい、自分自身が大切にされている、という自尊感情を得ることもできます。このことは幼児期・学童期等では健全な発育の基本となり、高齢期では活動的な日常生活を支える生きがい感ともなり、活動的な高齢期を過ごすことが可能となります。
高齢になると加齢に伴い、食事をするための身体機能である嚥下機能(飲み込む力)、咀嚼機能(嚙み砕く力)の低下が見られます。そのため、食事がうまく取れなくなり、食事量が徐々に減り、身体を動かすために必要なエネルギーや、筋肉、皮膚、内臓などを作る栄養が不足していきます。体力も減少するので、運動量が減り、さらに食欲低下となり低栄養となる悪循環を繰り返します。低栄養を予防するためには、
- 1日3食、食べること。
- 栄養バランスの良い食事を取ること。
- 楽しく、美味しく食べることが大事になります。
老人ホームの食事とは
老人ホームでの食事は、そのような事を踏まえ、常に工夫されて提供されています。美味しく、安全に食事をするために、その方の嚥下や咀嚼機能に合わせた介護食を提供します。主な介護食をわかりやすくご説明します。
- きざみ食とは、通常のお食事を小さく刻んで食べやすくしたもの。
- 軟菜食とは、固形のまま軟らかく調理したもの
- ソフト食(ムース食)とは、食べ物を柔らかく煮込み、一度ミキサーにかけてから元の形状に仕立てたもの
- ミキサー食とは、ミキサーにかけて液体状にし、飲み込みやすくしたもの
など、その方の嚥下や咀嚼機能に合わせた介護食の他、ご病気などによる栄養制限に対応した食事の提供もします。
月毎に、献立表が作成され、栄養管理士により栄養バランスが計算されています。実にバランスよく作成されています。主食に副菜、汁物。老人ホームの食事は味が薄い、美味しくないと思われがちですが、そんなことはありません。もちろん塩分は控え目に作られていますが、出汁をしっかり取るなど工夫をしているため物足りなさをさほど感じません。季節毎の旬な食材を使用し、食事で季節を感じ、食事を楽しんでいただけるように工夫しています。私たちの普段の食事にも参考にできるような、バラエティーに富んだ食事になっています。
食事は、老人ホームを探しているお客様がこだわる一番のポイント
老人ホームをお探しのお客様が、こだわるポイント第1位は食事です。老人ホームに入ると、唯一の楽しみは食事といっても過言ではありません。食事にこだわる老人ホームは、ホーム内に厨房を構え、調理をし、提供します。時にはイベントとして入居者の前でマグロ解体ショーを行ったり、お寿司を握ったり、天婦羅を揚げたりします。温かいものは温かいまま、冷たいものは冷たいまま提供するようにオペレーションを考えます。レストランで注文するように、メインを選べる選択食を導入している老人ホームもあります。病気による禁止食材の不提供、多少の好き嫌いによる代替え食に対応してくれる老人ホームもあります。
また、食事を美味しいと判断する要素には視覚も重要と言われています。人は美味しいと感じるために味覚、嗅覚、視覚、触覚、聴覚をフル活用しています。その中でも視覚から美味しいと感じる割合は80%を占めているともいわれます。そのため、食事にこだわる老人ホームは盛り付けにこだわるのはもちろんの事、料理をより美味しく見せるために食器にも気を配っています。
介護施設で使われる食器は、破損する可能性のないメラミンなどの食器が使われることが多いです。軽いため握力が低下した入居者様でも持ちやすいためです。また、落としても割れにくく怪我の心配もありません。使用している食器から、その老人ホームの食事へのこだわり度合いを確認することもできます。
食事の際は誤嚥を予防することが大事です。誤嚥は死亡につながりかねません。いつまでもご自身の口から食事を摂っていただけるように、食事の前に老人ホームでは多くの施設が口腔体操を取り入れています。舌や口周りの筋肉を動かすことにより、唾液の分泌を促します。唾液が良く出るようになると飲み込みがスムーズになり、誤嚥予防に繋がるのです。
口腔体操の代表的なものに「パタカラ体操」というものがあります。「パ」「タ」「カ」「ラ」の4文字を発声しながら口を動かします。舌や唇を大きく動かしながら発声するため嚥下機能の他、発声機能の向上効果にも期待が持てます。また大きな声を出すことで腹圧が高まり、誤嚥したときに咳き込む力が強くなります。
他にも、唾液腺を刺激するマッサージなどを取り入れてみるといいです。唾液は口の中をうるおすだけでなく、口内の細菌の増殖を抑え、口臭、虫歯、歯周病などさまざまなトラブルを防いでくれます。唾液は、99%以上が水分、残りの1%ほどに抗菌、免疫、消化などに関わる重要な成分を含んでいます。
生きる活力。それが食事です。
誤嚥を防ぐためには食べるときの姿勢も大事です。食べ物をしっかり飲み込んで食道に送るためには、首の角度が重要です。上半身を起こして背中を少し丸め、やや首を前屈させる必要があります。この姿勢ならば、飲み込んだどきに、のどが自然に上下に動きます。リクライニングで上体が反り返った姿勢や、介護者が上から介助する姿勢は、首が伸びているのでうまく飲み込むことができません。座位を保てる方であれば、車いすではなく通常の椅子に座って食べるのが好ましいでしょう。
生きる活力となる食事です。老人ホームも入居者様に満足いただけるよう努力しています。見学の際はお食事を試食させてもらうことをお勧めします。また、お食事の風景なども見学してください。どのように食事のサポートをしてくれるか、入居している方が美味しそうにお食事しているかをご自身の目で見てみて下さい。
高齢者の食事は、自分の口で美味しさを感じながら食べることが大事です。それが楽しみとなり、生きる意欲を高め、若々しい生活をもたらしてくれるのです。
株式会社ASFON CALLCENTER 室長 二見 幸恵
古い記事へ 新しい記事へ