新・高齢者住宅入門(特別編)
今回は「高齢者住宅(施設)」に関する特集を企画しました。
中でも、みんかいが広く取り扱っている「介護付き有料老人ホーム」「住宅型有料老人ホーム」の2つにスポットを当てて解説をしていきたいと思います。さらに、序章では〝通り一辺倒〞の空論に近い解説ではなく、極力、実態に即した内容で問題提起もしていきたいと思います。
序章
本来、高齢者住宅に複数の種類の違うスキームが存在するということは、各々に「役割」があるからです。さらに、その役割の違いを理路整然と説明することは、並大抵のことではありません。今回は、この難解な高齢者住宅(施設)について、わかりやすく実態に即して解説をしていきたいと思います。
「住宅」か「施設」か? そこは本当に重要なのか?
本題に入る前に「住宅」か「施設」かについて、少し論じておきたいと思います。一般的に、「住宅」とは家賃を支払って居住する物件を言い、施設とは利用料を支払って生活する物件を言います。したがって、高齢者系住宅の場合、サービス付き高齢者向け住宅が、唯一の「住宅」であり、それ以外は「施設」(介護施設)であると言うことになります。
しかし、多くの介護付き有料老人ホームや住宅型有料老人ホームは、自分達のことを「施設」ではなく「住宅」であると主張しています。その証拠に、以前は多くの介護付き有料老人ホームや住宅型有料老人ホームの管理者は、「施設長」と呼ばれていましたが、今は「ホーム長」と呼ばれています。
さらに、多くの有料老人ホームでは、「住宅(家)」という言い方を奨励しています。これは、「施設」は、入居者の自由が制限され閉鎖的なイメージがあるからだと推察します。
しかし、介護付き有料老人ホームの場合、収益構造が特養ホームや老健施設と似ていることから、そこで「できること」と「できないこと」には、実は大差がありません。
せいぜい、毎月支払うホテルコストと呼ばれる自己負担額の多少によって、例えば、病院受診時に介護職員らに対し送迎や同行をお願いできたり、少し食事が豪華だったり、長期的に入院している場合であっても、月額利用料さえ支払っておけば、居室を確保していくことが可能だったりの違いがあるだけです。
細かいことを言えば、各ホーム毎にできること、できないことも違うため、挙げればキリはありませんが、「住宅」と呼んでいる有料老人ホームは、入居者の自由や尊厳を大切にしているホームである、という印象をアピールしているように思います。
しかし、本当に重要なことは、住宅であろうと、施設であろうと、運営している法人やそこで働いている職員の考え方や品質が、そうであるかということです。したがって、あまりこの「住宅」「施設」という表現の違いに惑わされない方がよいと思います。
介護付き有料老人ホームの本来の役割とは何か?
本来の役割は、「多少経済的に恵まれている要介護高齢者のための住宅(施設)だと思います」。
結論から言えば、介護付き有料老人ホームは、自宅でスムーズな生活が営めない〝要介護高齢者〞のための「住宅(施設)」です。さらに、ある程度、費用の負担が可能な高齢者が対象になる介護系の住宅(施設)であるはずです。
ちなみに、介護報酬の仕組みが似ている社会福祉法人が運営している特別養護老人ホームは、要介護状態で多くの費用負担ができない高齢者が入居する「施設」ということになるはずです。
つまり、要介護高齢者のセーフティネットが特養ホームであり、余計な費用負担を多少してでも、自分らしい生活(ある程度のわがままな生活)をしたいと望む高齢者は、介護付き有料老人ホームという選択になるはずです。これが、正しい役割分担だと思います。
したがって、同じような介護状態である場合、自分らしく日々の生活を送りたいと考え、相応の費用負担が可能な高齢者は、特養ホームではなく介護付き有料老人ホームへの入居を選択するべきだと思います。
ちなみに、名前が似ている住宅型有料老人ホームは、限りなく自宅での生活様式を継続しながら、介護支援サービスを自分にとって必要なだけ受けたいと考える高齢者用の住宅(施設)です。そして、そこには介護支援を受けると言うよりは、より一層、自分らしく生きていくと願う高齢者のための住宅という色合いが強いと思います。
しかし、果たして実際は、そうなっているのでしょうか?実際は、特養ホームよりも低価格な介護付き有料老人ホームや住宅型有料老人ホームも存在しています。したがって、有料老人ホームは、特養ホームよりも「利用料金が高い」とは一概には言えません。
さらに近年では、特養ホームの高級化が進み、個室で尚且ユニットケア方式と言う高級老人ホームが採用しているケア方式の特養ホームも増え、利用料金の高い高級特養ホームが出現しています。
さらに、有料老人ホームは、月額利用料金が高いため、その分入居者の個別ニーズに対する対応力が高く、わがままを聞いてくれるケースが多いのですが、この構図も、格安有料老人ホームの出現で、必ずしもそうは言い切れなくなってきています。
よく考えなくてはならないことは、建物はお金をかければ限りなく高級になるし、職員配置数を増やせば増やすほど、介護支援として出来る可能性は広がります。しかし、会社組織やそこで働く職員らの考え方や思想が未熟であれば、そこで提供される介護支援の品質も向上しません。
つまり、いくら見えるところを豪華に手厚くしても、これでは誰も幸福にはなれないということだと思います。私も含めた業界関係者は、高齢者住宅の存在価値について、しっかりと考えていく必要があると思います。
高齢者住宅(施設)の現状について
結論から先に申し上げると、各々の住宅や施設の持つ役割が曖昧になりすぎているため、現実の運営状況を直視した場合、表[資料1、資料2]のような役割分担では、綺麗に説明することができないケースが散見されています。
例えば、自立の高齢者が対象であるはずの「サービス付き高齢者向け住宅」で、ホスピスと同じような運営をしている住宅(施設)があったり、逆に、介護付き有料老人ホームであるにもかかわらず、元気で自立した高齢者がたくさん入居している高級老人ホームもあります。
前者は、入居者の〝特定のある状態〞に特化してサービスを提供することで、提供するサービスを狭く深くして専門性の高い高度な対応を可能にしています。後者は、比較的経済的にも余裕がある富裕層が、第2の人生を謳歌するために、自宅では解消することができない日常生活に関する安心安全をお金で買うことが目的になっています。
さらには、要介護高齢者のセーフティーネットであるはずの特別養護老人ホームの多くが、高級化し、地域の要介護高齢者が〝料金が高くて入居できない〞というケースも決して少なくありません。
それでは、なぜ種類が違うにも関わらず、
同じような役割になってしまう高齢者住宅(施設)が
存在してしまうのでしょう?
私の考えは、次のようなものです。多くの高齢者住宅や施設は、介護保険報酬の獲得を目的としています。理由は、介護保険報酬の獲得が経営を安定させるからです。介護付き有料老人ホームや特別養護老人ホームはもとより、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅においても、経営を安定させるためにはどうしても介護保険報酬へ依存しなければなりません。
このため、多くの介護系事業者は、要介護2以上とか、要介護3以上というように介護度を指定し、要介護認定高齢者の獲得に精を出しています。これは、介護保険事業者が安定的に事業所運営をしていくためには、当然の行為だと考えます。
ちなみに、世の中でよく言われている「介護難民」は、単に介護の担い手がいないケースだけではなく、経済力がなく、介護保険報酬も期待できない軽介護認定の高齢者が陥る現象ではないでしょうか。多くの住宅や施設では、多額の介護保険報酬が期待できる中重度以上の要介護認定高齢者を囲い込み、彼らを他住宅(施設)へ流出しないように神経を使っています。
そして、このような理論が大勢を占める介護保険業界では、様々な住宅(施設)の運営事業者は、同じような状態の高齢者を求めているため、どうしても同じような住宅(施設)運営になってしまうのです。この介護保険報酬偏重主義が、そもそも役割が違う住宅(施設)であるにもかかわらず、同じような運営になってしまう原因になっていると私は思います。
さらに、この現象に追い討ちをかけているのが、住宅(施設)の持つ役割よりも「今、困っているこの現実をなんとかして欲しい」という要介護高齢者を抱えている家族のリクエストの存在です。このリクエストに応えるために、多くの高齢者住宅(施設)事業者は、入居者受け入れ態勢の整備を優先して進めています。
ある老人保健施設で支援相談員をしているAさんの話を例にとって考えてみましょう。Aさんは、自分達の使命、役割は、病院と自宅との中間施設であると位置付け、退院する高齢者の在宅復帰のためのリハビリに貢献しようと考えていました。そのために、入居相談時にリハビリの充実を訴えて居宅や病院などを訪問したところ、多くのリクエストは、〝リハビリなんてどうでも良いので、認知症の親を預かって欲しい〞というものだったと言います。
結局、Aさんの老健は、地域のリクエストに応えることを重要視し認知症高齢者の受け入れを積極的に行っています。口の悪い同業者からは「これでは、特養ホームと同じではないか!」と陰口を言われているようです。
さらに、多くのスキームの違う高齢者住宅(施設)の存在を曖昧にしている理由として「転ホームを前提としない入居」という業界常識が挙げられます。
現在の高齢者住宅(施設)は、最初の入り口、つまり、老人ホームへの入居を検討するというところでは多少細かく検討をするのですが、入居後の身体や精神の状態変化に関しては、住宅(施設)側が自助努力で何とか対応してくれるはずだという論が根強く浸透しています。これは、入居者側、住宅(施設)側、双方にあるマインドだと思います。
つまり、現状の高齢者住宅(施設)は、一度入居したら、最後まで当該住宅(施設)で暮らすことを想定しているため、多くの業界関係者は、ワンストップでいつまでもどのような高齢者であっても、追い出さない受け入れ体制を確保していることが重要であるということになっています。したがって、たくさんの種類の違う住宅(施設)があったとしても、この方程式で整理されていくため、どの種類の住宅(施設)も、すべての入居者の受け入れを目指さなければなりません。
結果、どこの住宅(施設)も似たり寄ったりの機能を備えた同じような住宅(施設)になってしまうのです。
私たちが考えなくてはならないことは、様々な形態の高齢者住宅(施設)があるということは、個人別に向き不向きもあり(もちろん、この個人別向き不向きには、お金のあるなしも含まれる)、これらを考えた上で、自分に合った住宅(施設)を選んでいくことが重要だということです。
そして、身体や精神の変化などによって、自分に提供されるサービスが当該ホームでは不十分になった場合は、他のホームに「転ホーム」するという行為が当たり前である、ということを理解することが重要なのです。
ちなみに、比較的多い〝今は空室がないので、有料老人ホームで待機し、特養ホームの空きが出たら特養ホームへ引越したい〞という行動は「転ホーム」だと考えます。
一度入居したら、最後までそのホームに住み続けるという常識。介護付き有料老人ホームや住宅型有料老人ホームの入居金制度が減少している昨今、その時々の諸事情に合わせて「転ホーム」するということを考えるタイミングにきているのではないかと思います。
高齢者住宅(施設)における介護保険サービス提供の違い
考え方の概略は次の通りです。なお、この概略は法制度を厳密に論じてはいません。現象、実態から考えて、なるべく分かりやすい形で表記表現をしていきたいと考えています。
特養ホームや介護付き有料老人ホームに代表される介護保険事業の場合、提供されるサービスは、その建物に紐づいています。つまり、老人ホームに雇用された職員から介護支援サービスの提供を受けているという理解で良いと思います。
したがって、特養ホームや介護付き有料老人ホームでの介護支援サービスは、建物全体の「丸めのサービス」とか「包括サービス」という表現で説明されます。月極(日割り)の定額制です。今流の言い方で言えば「サブスクリプション」ということになります。
一方、住宅型有料老人ホームやサ高住などは、建物自体(住宅事業)とは別に、訪問介護事業や通所介護事業などといった他の介護保険事業から介護支援サービスが提供されるため、提供された事業者ごとの「出来高払いの介護」になります。
したがって、介護保険サービスを受けるという観点から考えた場合、自宅で生活をしていることと「何ら変りはない」というのが原理です。そして、ここでよく課題として浮上してくる話題は、自宅と変わりがないのであれば、自宅で暮らせばよいのではないか?という問に対し、回答ができないことです。
わかりにくい「住宅型有料老人ホーム」の実態について
しかし、実際には世の中にある住宅型有料老人ホームやサ高住では、[資料4]とは違うスキームで運営しているケースの方がはるかに多いことです。したがって、「実態と違うではないか!」というお叱りの声が聞こえてきます。
少し解説を加えていきます。話をややこしくしているのは次のことが原因です。一つは、要介護高齢者の入居を促進するためには、訪問や通所などの介護保険サービスが入らない時間帯に起きる介護ニーズに対し、どう対処するのか?という課題のクリアです。
多くのケースではその対応のために、ホームによっては〝介護支援費〞などという名目で別途数万円を徴収し、その代わりに隙間時間を埋めるために建物に所属している職員を必要に応じて配置し対応をしています。
さらに、入居者一人ひとりの区分限度額上限一杯まで介護保険サービスの提供可能なケアプランを作成し、同一法人が運営する訪問介護や通所介護などの介護保険サービスを利用させることで、同一法人内に介護保険報酬が落ちる仕組みを作り、その保険報酬の一部を使って、24時間365日にわたり、切れ目のない介護支援体制維持のための職員配置を実現し、隙間時間を埋めています。
平たく言えば、入居者全員が中重度以上の要介護認定を持ち、区分限度額を100%消化した場合、かなりの介護保険報酬を得ることができるため、隙間時間を埋めるための職員の雇用に必要なコストは、十分に用意することが可能だということです。
結果だけを見た場合、住宅型老人ホームやサ高住という「建物」で、実施する介護付有料老人ホームということになります。
考えなければならないことは、区分限度額上限一杯まで、ケアプランを作成すること自体は、何ら問題はありませんが、本人に必要のないケアプランを過剰に作り、サービスを提供していくことは、問題視されても致し方ないことです。
しかし、その一方で、このような運用をすることで、毎月の月額料金を低く抑え、年金金額の少ない要介護高齢者の老人ホーム入居の道が開かれていくということについては、ある意味救われている要介護高齢者や家族が存在しているということも理解しておかなければなりません。
いずれにしても、このように複雑で、そして独自の進化を遂げている住宅型有料老人ホームは、専門家であっても、なかなか正しく実態を把握し、その説明を理路整然とすることが難しいスキームであるということを記しておきたいと思います。
高齢者住宅(介護付き有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅)の居室例
介護付き有料老人ホームをはじめとする介護サービスを主たるサービスとして提供している有料老人ホームの居室は、間取りはシンプルで、面積も20平米前後とコンパクトです。特養ホームや老健などの場合、多床室といって、1室に複数人で病院の病室のような居室や、トイレや洗面所などの水回りが、居室内に設置されていないケースもあります。
しかし、有料老人ホームの場合は、原則個室でトイレと洗面所は居室内に配置されています。また、居室は、寝室や書斎に近い運用なので、食事は食堂で、日中は居室外のホールなどの共用部分で他の入居者や介護職員らと過ごすことができるように運用されています。(コロナ前の平時の対応基準)。
サービス付き高齢者向け住宅の居室は、有料老人ホームよりもさらに広く、25平米から30平米程度になります。もちろん、これ以上に広い居室もあります。そして、特筆することは、浴室が設置されているケースも多く、いわゆるバリアフリーの賃貸マンションという理解で良いのではないかと思います。
文:元気かいみんかい編集部
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