『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』
(映画紹介 みんかい映画プロモーション協力企画)
配給・宣伝:アンプラグド
3月25日(金)より全国順次公開 !
主な首都圏の上映館です、東京都は新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、ヒューマントラストシネマ渋谷、ポレポレ東中野、MOVIX昭島、埼玉県はMOVIX三郷、千葉県は千葉劇場。なお、他の都道府県においても公開しています。
最寄りの上映館情報については、 https://bokemasu.com/ にて確認ください。また、上映の詳細につきましては、当該映画館へ直接お問合せをお願いします。
介護はきっと、親が命懸けでしてくれる最後の子育てなんだよ
「老々世帯で暮らしていくのも悪くはない」。
認知症のお母さんを自宅で介護する98歳のお父さんのドキュメンタリー映画です。
本誌内容は、本映画の監督であり、娘でもある信友直子さんへのインタビューと配給会社であるアンプラグド社から提供いただいた資料をもとに構成しています。
私なりの映画の見どころを“ネタバレ”しない程度に解説しています。
ぜひ、映画館に足を運び、自身の目と耳で、お父さんの勇姿を確かめてみてください。ちなみに、お父さんは、映画撮影中に100歳の誕生日を迎え、そのお祝いに某ファミリーレストランのハンバーグを美味しそうに食べています。長生きする人は肉食ですね。
長年、老人ホーム関連の仕事をしてきた私の場合、このような映画を拝見すると、“このお母さんは老人ホームへ入居する案件だ。しかし、お父さんは、お母さんの老人ホーム入居に対し、果たして同意をするのだろうか?きっと、反対するに違いない”という妄想が広がります。
さらに、映画に登場するお父さんが、もし老人ホームに入居したとすると、きっと介護職員から好かれる人気者の入居者になるに違いないとも思います。ちなみにお母さんは、老人ホームでは微妙ですね。もはや私は職業病です。しかしながら、本映画には「老人ホーム」は登場しませんが・・・。
映画のワンシーンです。
脳梗塞で倒れたアルツハイマー型認知症のお母さんの今後について、お父さんと娘は話し合いをします。「これからどうしようか?」という娘の問い掛けに対し、お父さんは娘にこう回答します。「ここへ引き取ります」。
娘が、「私が(東京から)帰ってきて、一緒に、ここでお母さんの介護をしようか?」と聞くと、お父さんは次のように返します。「親のことを心配せんでいいよ。わしが一人でやります」。
その後、お父さんは、いつ、お母さんが病院から退院してきてもいいように、体力作りに余念がありません。
お父さんのこのモチベーションは、いったい、どこからくるのでしょうか?
映画の中のお父さんは「わしが今死んだら、どうにもならんけんのう。おっかあが、あんた(娘)の重荷になるけん」と続けます。
親の事情で、ひとり娘に迷惑をかけたくないという一念で、自身を奮い立たせています。子供が親の犠牲になってはならない、というお父さんの強い意志を見ます。自分とお母さんのことは、自分たちでやるという強いお父さんの意思表示です。
私は、このやりとりについて「娘」でもある信友監督に聞いてみました。監督の回答は次のようなものでした。
私(信友監督)は、幼少の頃から「無念」という言葉の意味を知っていました。それは、父が幾度となく口癖のように繰り返し言っていたからです。父は、本当は言語学者になりたかったと言います。(そう言われてみると、映像の中のお父さんは、どことなく学者のように見えます)。
しかし、目指して勉強している時に戦争にとられ、その後、生きていくために、会社員になって人生を送ることになったと言います。この断念は、さぞかし「無念」なことだったのだと思います。だから、娘の私には、いつも「自分の好きなことをやりなさい」と言い続けていました。
私は、父のこの言いつけを守り、大好きな映像制作という道を歩んでいます。きっと、父は親の事情で娘が大好きな仕事を辞めなければならない事態は、何がなんでも避けなければならないと思っているのだと思います。
信友監督にお父さんのこの話を聞いた私は、お父さんの一連の発言は、お父さんの娘に対する愛情もそうだと思いますが、何より、お父さんがその昔味わった「無念さ」を、娘には絶対に味わわせたくないという気持ちがそう言わせているような気がしてなりません。
結局、お母さんは脳梗塞が再発し、自宅ではなく、療養型の病院に転院し、そこで自宅復帰を目指すことになるのです。
私がこの映画を見て思うことは「老々介護も悪くはない」ということです。
高齢者介護の場合、子供(保護者)の視点や介護ケアの視点で考えた場合、なんらかの支援が必要だということになりますが、当の老々の本人たちは「まあいいか」とか「仕方がない」と考え、納得をしているケースもあります。
さらに、映画の中のお父さんのように、お母さんの介護は自分でやると腹を括っているケースもあるはずです。
どうしても、人は、自分の価値観や尺度、好みで、ものごとを判断してしまいがちです。だから「きっと、こうした方が良いに違いない」と盲目的に考え、自分の価値観を相手に押し付けてしまいます。しかし、多くのケースでは、当の本人は、意外と今置かれている状況に対し「満更でもない」と思っています。
相手のために良かれと思ってやったことが、却って余計なことになってしまうこと。この映画を見ていると、介護の世界は、やはり「押し付け」や「過剰」が多いということを思い知らされます。
さらに、お父さんは、耳が遠いのですが、この耳の遠いことが、却って非常によい結果になっているような気がします。全てのことを事細かに聞きとることができないため、結果、自分にとって不必要な雑音を拾うこともありません。マイペースで、自分らしく生活をしていくことができています。
私の仕事は、要介護高齢者やその家族に対し、適切な老人ホームの提案をすることです。ちなみに、適切な老人ホームの提案とは、単に、場所や料金、スペックが適切であるかどうかだけではありません。
相談者(多くは子供世代)が考えている入居動機が適切かどうか、入居理由が適切かどうか、など相談者の持っている悩みや思いに対し「私はこう考えますよ」とか「多くの相談者は皆、同じようなことで悩んでいますよ」というようなアドバイスを適切にすることで、相談者が自分の考えや行動を客観的に確認することができ、結果、正しい判断ができるようにすることの支援です。
この映画は、在宅で親の介護をしている子世代に、さらには、遠距離で親の介護をしている子世代の方に、ぜひ観ていただきたい映画です。「そうそう」「うちも同じ」とか「うちのお父さんも映画のお父さんみたいならよかったのに」などという勝手な感想が聞こえてきそうです。
最後に娘である信友監督の次のエピソードで締めくくりたいと思います。
「介護はきっと、親が命懸けでしてくれる最後の子育てなんだよ」。
これは人生の先輩が信友監督にくれた言葉だそうです。
そもそも、信友家の実態をここまで赤裸々に映像にしていくことに対し、抵抗感はなかったのでしょうか?私のこの質問に信友監督は次のように答えます。
当然、抵抗感はありました。映画公開前、テレビ番組「Mr.サンデー」で初めて放送した時の話です。その時は、どのような誹謗中傷が両親の元に来るのか心配で、両親の元にしばらく滞在していたそうです。しかし、その心配は杞憂に終わりました。
さらに、映画を見た実家の近所の人たちから「なんでもっと早く、お母さんのことを話してくれなかったの。水臭いじゃない」という声が多く寄せられたと言います。多くの方が、この映画を“自分ごと”として観てくれたことに信友監督は大きな満足を感じています。
認知症になった母親とその介護をする高齢の父親のあるがままの姿。娘でなければ撮れないであろう映像を同じような環境や事態に直面している方に届けることで、一人でも多くの方が勇気づけられ、前向きになれるのであれば、信友家の両親による最後の子育てにも大きな価値があるというものではないでしょうか。
ぜひ、映画館へ「お父さん」と「お母さん」に会いに行ってください。
小嶋 勝利
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『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』