遺言書について
遺言書は、亡くなった方(被相続人といいます)の遺産を受け継ぐ相続人同士が、財産の取り合いで揉めることのないよう、被相続人の財産を「誰に、何を、どのくらい」相続させるか等の被相続人の希望を記載した法的効力を有する書類のことをいいます。
遺言書は被相続人の最後の意思表示であり、相続においては原則遺言書の内容が最優先されますので、相続が発生したら相続人はまず被相続人が遺言書を遺していないか確認を行いましょう。
遺言書を遺すことでご自身の希望する相続を実現できるだけでなく、残されたご家族は遺言書の内容に従って相続手続きを進めることができるため、経済的、精神的な負担を軽減することができます。一方、遺言書が遺されていない相続においては全相続人で遺産の分割方法について話し合う「遺産分割協議」を行うことになりますので、相続人トラブルに発展する恐れもあります。
なお、遺言書に特定の人物に全財産を相続させる等の文言が記載されていた場合、一部の相続人は遺留分を主張して最低限の相続分を確保することができます。
遺言書の作成方法
遺言書の内容は原則、作成者が自由に決めることができますが、法律によって厳格に定められたルールがあるため、法的な効力を持つ遺言書を作成するにあたっては規定通りに正しく作る必要があります。
なお、民法において遺言は“15歳に達した者は、遺言をすることができる”(民法961条)としています。また、成年被後見人(知的障害や精神上の障害により判断能力を欠くとされ、家庭裁判所から後見開始の審判を受けた人)に関しては、医師2名以上が立ち会い正常な判断力を有すると判断された場合に限り遺言をすることが出来ます。
3種類ある遺言方式(普通方式)
通常時に作成できる遺言書は大きく分けて3種類あり、それぞれ特徴と作成の方式が異なります。法に沿って作成された遺言書でないと無効となってしまいますので、遺言書の種類を確認し、ご自身のご都合に合った方式で遺言書を作成するようにしましょう。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者ご自身で全文・日付・氏名を書き、押印して作成する遺言書です。費用もかからず気軽に作成できますが、方式の不備による無効や紛失・改ざんといったリスクがあります。なお、財産目録の添付については、必ずしもご自身で作成する必要はなく、ご家族の方がパソコンで表などを作成し、預金通帳のコピーを添付することも可能です。また、ご自宅等で保管していた遺言書の開封に際しては家庭裁判所において検認の手続きが必要となりますが、法務局で保管していた自筆遺言証書に関しては家庭裁判所での検認手続きは必要ありません。
公正証書遺言
公正証書遺言は、公証役場にて2人以上の証人が立ち会いのもと、遺言者の口述内容をもとに公証人が作成する遺言書です。公証人が法律に沿って公正証書として作るため、方式の不備についての問題はなく最も確実性の高い遺言書が作成できます。また、原本は公証役場に保管されるため偽造や紛失の心配がなく、ゆえに検認の必要もありません。デメリットとしては、作成にあたり費用がかかるということと、証人との日程調整が必要であるため多少の時間を要するという点が挙げられます。
秘密証書遺言
遺言者ご自身で作成し、封をした遺言書を公証役場において2名以上の証人の立会いのもと公証人に提出します。作成者以外が遺言の内容を知ることはありませんので、亡くなるまで誰にも内容を知られたくないという場合に利用されますが、あくまで本人の作成のため法的に無効となる恐れもあり、現在はあまり用いられていません。
家庭裁判所にて検認が必要な遺言書
ご自宅に保管されていた遺言書はその場で開封し内容を確認したい気持ちに駆られますが、公正証書遺言以外の遺言書は家庭裁判所に行って検認手続きを行なわなければペナルティが課されることになります。
遺言書の偽造・改ざんは相続人としての権利喪失
ご自宅等で発見された自筆証書遺言や秘密証書遺言を勝手に開封した場合、発見者が内容を書き換えたり、破棄したりする恐れがあります。このように勝手に遺言書を開封して偽造、改ざんを行うと相続人としての相続権を失うことになります。
公正証書遺言であれば、遺言書の原本は公証役場で保管されるため、上記のようなリスクを回避できるだけでなく、紛失した場合でも公証役場において再発行が可能です。
「公正証書遺言」が最も確実性の高い遺言方法です。ご遺族が揉めることがないよう、公正証書遺言での作成がおすすめです。
遺言と死後事務委任の違い
死後事務委任契約とは、死後に発生する多くの面倒な事務手続きをお元気なうちに第三者へ委任する制度です。依頼人の死後の手続きを行うということに関しては、死後事務委任の受任者と遺言執行者は似ているように感じますが、死後事務委任と遺言では大きく異なる点があります。
遺言書における遺言執行者は、遺言の実現について必要な行為のみを行いますが、死後事務委任は財産承継を除く、葬儀や供養、各種精算、行政上の手続き等を行うことになります。つまり、死後事務委任では財産承継については対応できず、遺言書では死後事務について対応できないということになります。
したがって、ご自身の死後のお手続きおよび財産の扱いに関しては、遺言だけでなく死後事務委任契約も併せておこなうことが安心といえます。なお、遺言と死後事務委任については、法律行為の絡む複雑な手続きが多いため、司法書士や行政書士などといった専門家へ依頼しましょう。
<執筆者>
株式会社オーシャン
相続遺言アドバイザー 黒田 泰
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