認知症高齢者を含む、多世代交流型のフリースクールを目指して
認知症高齢者との交流を通じて
新しい教育の場で新しい学びの場を提供
認知症高齢者数は2020年時点で約600万人、2025年には65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症を発症すると予測されています。
現在、国は高齢者に対するサービスと子育て支援の充実を優先順位の施策として挙げていますが、高齢者のサービスは厚生労働省、子育て支援は文部科学省と別の枠組みでサービスが提供されていることもあり、両者が結びついた交流の機会は少ないように思われます。
もちろん、高齢者施設の中には、併設されている保育園や、近隣の幼稚園などとの交流会や慰問会などのイベントを定期的に開催したり、近隣の小・中学校の体験学習の授業の受け入れを行っているケースもあります。
以前、私が携わっていたグループホームでも、利用者さんご自身の存在価値の再認識、意欲の向上などを目的に定期的に保育園児との交流会を実施していました。どの利用者さんも園児の顔を見ると普段は見せないような笑顔を見せてくれていました。園児にとっても高齢者と関わることで、高齢者をいたわる気持ちを学ぶ良い機会となっていたようです。
しかし、定期的な交流は行われていても、毎日の生活の中に子ども達いることが当たり前であるケースはまだまだ少ないようです。
十文字学園女子大学の星野敦子教授は、地域連携共同研究所所長、地域連携推進センター長として、地域の方々の居場所づくりのための「森のプレーパーク」や、「子育て応援フード・コスメパントリー」、「不登校の親の会」の支援など様々な活動をされています。
その活動を通じた出会いをきっかけに、認知症専門のデイサービスに通う高齢者がイキイキと生活をされていることを知り、不登校の子ども達にも、認知症の高齢者にもプラスになればと、認知症高齢者を含む、多世代交流型のフリースクールの開校を目指しています。星野敦子教授に不登校の現状も含めお話しをお伺いしました。
フリースクールの数が足りず
不登校の小・中学生の居場所がない
今、不登校の子どもたちがとても増えていて、全国で約24万人の小・中学生が不登校です。コロナ禍が影響していることも考えられますが、私は、今の子どもと学校の仕組みが合わなくなり、ひずみが生じていることも原因のひとつであると思っています。そしてこれだけ多くの子どもたちがいるにもかかわらず、フリースクールの数は足りてはいません。
特に、小・中学生の不登校児童を受け入れるフリースクールの数が足りないこともあり、そのような子ども達の居場所がないことがとても問題になっています。例えば、小学校の1年生から不登校の子どももいますが、ママが働いていたら子どもは日中一人で家にいなければなりません。
このような状況の中で、保護者の方たちはとても苦しんでいます。子どもが不登校になったことに責任を感じて、ご自分を責めたり、相談する場がなく、つらい思いをしている方もたくさんいらっしゃいます。
認知症高齢者を含む、
多世代型交流のフリースクール
「不登校親の会」のママ達から色々な話を伺ううちに、この状況をどうにかするために、「私がフリースクールを立ち上げようか?」と考えるようになりました。
そんな時、以前からの友人であるNさんから「利用者さんが、住んでいたアパートが取り壊されることになり、有料老人ホームに入居することになってね、私のデイサービスに通うことができなくなったんだよ。そうすると今までと同じ介護流派でなくなるために本人が戸惑って一時的に混乱する場合多いので心配なんだ。私が、サービス付き高齢者住宅を作れば、その利用者さんはこれからも私のデイサービスに通いながら、これまでと同じペースで生活することができるのにと思ってね、このようなケースはこれからも起こりうるだろうから、サービス付き高齢者住宅を開設しようかと思っている」という話を聞きました。
その時「そうだ、高齢者住宅と同じ敷地内にフリースクールを作ろう」と思ったのです。Nさんは認知症の高齢者だけが利用するデイサービスを運営しています。そのデイサービスでは、利用者さんが献立を考え買い物に行き、利用者さんが料理を作る。元大工さんだった利用者さんが指導をして、棚や椅子を作るなどとてもユニークなことを行っています。認知症の高齢者との交流は、子ども達にとてもプラスになると思い、認知症高齢者を含む、多世代型交流のフリースクールの開校を目指すことにしたのです。
新しい教育の場で、新しい学びを作る
多世代の人達と交流を深め、関わりを持つことは子ども達だけではなく高齢者にとってもプラスになります。現に、大学構内を開放して開催している「森のプレーパーク」では、たまたま参加してくださった高齢者の方が、ベーゴマの名人だったり、餅つき名人だったりします。子ども達からは「凄いね、また教えて」と喜ばれ、名人たちはご自身の存在価値を再認識され誇らしそうです。
多世代型交流のフリースクールでは、同じ敷地内にある高齢者住宅にお住いの認知症高齢者の方々にご協力をいただき、一緒に調理を行ったり、DIYをしたりする体験学習も取り入れることができたら素晴らしいと思っています。
不登校は、誰にでも起こりうる現象です。多様化の進んだ社会において、一律的にならざるを得ない学校の制度とうまくかみ合わず、ちょっとしたきっかけで欠席が続くことが、長期欠席や不登校につながっています。感受性が強い子や個性的な子が多く、一人ひとりにあった指導をすることで素晴らしい能力を発揮する子どもたちが多いのではと感じています。
そんな素晴らしい子どもたちとともに新しい学びの場を作り、在籍校との連携も図りながら保護者の負担も学校の負担も少しでも減らしていけるような仕組みが望ましいと思っています。
認知症高齢者を含む、多世代型交流のフリースクールで、「一人ひとりにあったカリキュラムで、力を伸ばす教育」新しい教育の場で、新しい学びを作ることを目指して進んでまいります。
取材・文章:黒川玲子(株式会社ケー・アール・プランニング)