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有料老人ホームのパーパス(存在価値)とは何なのだろうか?前編

タイトル_有料老人ホームのパーパス(存在価値)とは何なのだろうか?前編

月額利用料(非介護保険分野)から見た
有料老人ホームの価値について考えてみよう!


はじめに


 皆さんは、有料老人ホームの料金についてどう考えているでしょうか。
 老人ホームを探している方と話をしていると、多くの方は、自身の持つ「不動産価値」とリンクして評価しているように思います。たとえば、「ここは、都内の一等地だからきっと高いに違いない」とか「ここは駅から遠いので安いはずだ」という具合です。

 たしかに、不動産の価値が有料老人ホームの料金に影響を与えることはその通りなのですが、有料老人ホームの場合、その建物で提供されているさまざまな付帯サービスが料金に反映されています。したがって、そのサービスの内容や詳細を理解しようとしなければ、本当の老人ホームの価値、つまり、高いのか、安いのか、ということを判断することはできません。

 したがって、今回の特集は、この月額利用料金に焦点を当て、老人ホームで提供されているサービスについて解説をしていきたいと思います。

老人ホームの料金内訳を理解しよう

表_要介護3高齢者の1日あたりの介護保険報酬

 ご存知の方も多いと思いますが、有料老人ホームの料金内訳は、「介護保険報酬」と「月額利用料金」の2つに大別されます。「介護保険報酬」とは、介護保険法に規定された介護サービスをホーム内で提供することで国(入居者負担あり)から支給される報酬(お金)を言います。

 この報酬は、事細かにルールが決められているため、有料老人ホームは、このルールを理解し、ルールを厳守することで報酬(お金)を受け取ることができます。したがって、理想論を言うなら、入居者も介護保険報酬のルールを理解し、そのルールに基づいたサービスをホーム側に求めなければなりません。

 しかしながら、昨今では、事業者数、入居者数、それぞれの増加に伴い、入居者側が事業者に対し介護保険のルールを逸脱したリクエストをするようなケースも目立っています。ちなみに、この介護保険法のルールに著しく違反した場合は、老人ホーム側は報酬の返還、最悪の場合、介護保険事業者として仕事の継続ができなくなるなどの行政処分を受けることもあります。

 つまり、介護保険制度とは、老人ホーム側、入居者側双方が、法の正しい理解をした上で、不足でも過剰でもない運用、利用をすることが求められているはずです。

介護保険報酬分は多くのホームでは
同じ金額です


 実は、次の部分の理解が重要なのですが、この「介護保険報酬」は、基本的に有料老人ホーム(介護付き有料老人ホーム)だけではなく、公的機関としての色合いが濃い特別養護老人ホーム、介護老人保健施設(老健)など、社会福祉法人や医療法人が運営している介護保険施設と同じルール(厳密に言えば、保険点数など相違点は多いのですが、入居者側から見た運営方法に関しては概ね同じです)で運営されています。

 つまり、有料老人ホームと特別養護老人ホーム、介護老人保険施設は、介護保険制度だけを切り取って見た場合、同じ仕組み、同じルール下で運営されていると理解してよいと思います。乱暴な言い方をすれば、介護保険制度の支配下にいる介護保険事業者は、原則、どこの施設、ホームにおいても、同じ金額の介護保険報酬が支払われ、同じ内容の介護支援が行われているということになります。 


いよいよ本題。
有料老人ホームのパーパス(存在価値)とは何か?


 それでは、有料老人ホームのパーパス(存在価値)とは、一体何なのでしょうか?つまり、特別養護老人ホームなど介護保険法上の介護施設と有料老人ホームとの違いは、一体何なのでしょうか?という話になります。ここが、今回の特集のメインテーマです。

 前記した通り、介護保険制度下での介護保険サービスは、概ね同じです。したがって、有料老人ホームのパーパス(存在価値)を考えた場合、ホームが独自に設定している月額利用料に基づきホーム内外で提供されるサービス、つまりは「非介護保険分野」に着目して評価をしていくことが重要になります。

 ただし、特別養護老人ホームのような公的色合いが強い介護保険施設は、月額利用料金等を事業者側が自由に決めることができないケースも多く、さらには、個人の経済事情で利用料金の減免制度もあるため、今回の特集記事の内容からは外して論じていきます。

 また、存在価値の話に着目すると〝うちのホームは、職員教育に力を入れているので、他のホームとは介護力が違う〞とお叱りの声も聞こえてきそうですが、この「介護力の違い」は、極めて個別性が高く、評価者である入居者やその家族の介護保険制度に対する理解度や個人的な都合、嗜好の影響も強く受けることから、簡単にその「違い」を論じることは困難だと考えています。したがって、今回の特集記事においては、月額利用料金に紐づき客観的に確認可能な事象についてのみ話を進めていきたいと思っています。 

月額利用料金の内訳とは

老人ホームの入居費用を考える夫婦


 月額利用料金(入居金など前払金を含む金額)に紐づく費用の多くは「ホテルコスト」と呼ばれるものです。平たく言えば、家賃(不動産価値)、共益費、施設維持費、管理費、食事代、保険報酬外の人件費などがそれにあたります。このホテルコストが、有料老人ホームのいわゆる〝価値〞であり、この料金が、提供されるサービス内容と比較して〝高い〞〝安い〞の評価になります。

 もちろん、これらのサービスは、最終的には個別に入居者自身が〝そのサービスは自分にとって必要だ、重要だ〞と判断すれば高価値ホームになり、〝自分には不要だ〞と考えれば、その人にとっては無価値ホームになります。
「老人ホーム」というよくわからない領域での出来事なので、なかなかイメージが湧かないケースもあると思いますが、基本的には、ホテル選び、レストラン選び、大学選び、携帯電話会社選びなど、日常生活で私たちが実践している〝評価〞と何ら大差はありません。

 以下に、具体的な月額利用料金に紐づくサービスについて解説をします。


「建物」「設備」など不動産から見た価値

老人ホームのリビング


 月額利用料金が高い有料老人ホームは、立地がよく、建物自体や付帯設備にお金を掛けています。当たり前と言えば当たり前の話です。多くの方が住んでみたいと思っている人気エリアや、なかなかまとまった土地が取得できない稀少エリア(駅前など)に建設されるケースが多いと思います。

 さらに、共有部分(入居者全員が利用できるスペース)が広く贅沢に確保されています。これが〝価値〞です。理屈は「ホテル」と同じだと考えれば良いと思います。例えば、高級ホテルの場合、エントランスやロビー、ラウンジなど直接的にお金を産まない空間を広くとり、豪華な調度品を並べ建物全体を優雅でステイタスのあるものに仕上げています。それとは逆に、ビジネスホテルの場合、無駄な空間を極力排し、1室でも多くの客室を確保、少しでも収入が得られるような効率を考えています。

 有料老人ホームにおいても、理屈は同じです。見学に行くとよくわかりますが、高級老人ホームといわれているホームは、どこも高級ホテルのような佇まいです。広いエントランスや吹き抜けのロビーが用意され、名のある芸術家の絵画が配置されています。さらに、ホーム内には、映画を見たり、カラオケができる娯楽室、運動をするための体育室など、用途、目的に合わせた設備を要する「専用室」が多く配備されています。

 また、中には、天然温泉やプールなどを付帯している老人ホームもあります。介護付き有料老人ホーム〝あすみが丘グリーンヒルズ〞の桑原施設長の話によると、グリーンヒルズは、千葉市緑区あすみが丘地区のほぼ中央に位置していると言います。

 一昔前までの首都圏の老人ホームといえば、山間部や人里離れた地域に建設されていましたが、当該ホームは、地域の中心地にあえて土地を取得し建設しました。さらに、建物は余計なコストがかかりましたが、堅牢で耐震性が高く、災害時には地域の避難所の役割も果たすようになっています。

 また、蓮田駅前にある介護付き有料老人ホーム〝蓮田オークプラザ〞では、天然温泉の大浴場があります。内風呂に加え露天風呂まで整備されています。蓮田オークプラザの運営会社である(株)ITC社の岩田社長の話によると、この天然温泉は、創業者であり医師でもある実父が、自分が入居したい老人ホームを考えた時、高齢者の健康管理には温泉は重要だ、と考えて掘削を始めたといいます。

 地下1500メートルから湧き出る温泉は、ナトリウム・塩化物温泉で330ℓ/minと豊富な湯量です。温泉の専門家の話によると、あの有名な有馬温泉のそれと同等の泉質だと言います。

 さらに、こんな話もあります。スミリンフィルケア社では、親会社である住友林業社の技術を活用し、木造建築の老人ホームを建てています。同社の向井取締役営業本部長の話によると、木造建築の老人ホームは、人に優しいと言います。

 特に床に特徴があり、誰であれ、一歩ホーム内に足を踏み入れると、鉄筋コンクリート造や鉄骨造とは明らかに足から伝わる感触が違うようです。さらに、木造建築なので、天井高があまり高く取れないのですが、かえってこれが自宅と同じ佇まいになり、入居者にはむしろ好評だと言います。

 つまり、月額利用料金等には、前記した付加価値を含有しているのです。たとえば、部屋から海が望めるホームの場合は、「景色」「景観」という価値があり、駅至近に存するホームの場合は「立地」という価値があります。
そこはかとない安心感や健康、非日常感、さらには居心地(いごこち)などという、そこで生活をしていく入居者に想いを寄せたホーム側の配慮が「価値」であり、その価値が料金の中に含まれているのです。

後編では、「食事」から見た価値、「職員の配置人数」から見た価値について考えてみたいと思います。

元気かいみんかい編集部