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有料老人ホームのパーパス(存在価値)とは何なのだろうか?後編

タイトル_有料老人ホームのパーパス(存在価値)とは何なのだろうか?後編

前編はこちら: 「有料老人ホームのパーパス(存在価値)とは何なのだろうか?前編

「食事」から見た価値

豪華な食事


 次に、食事について考えてみたいと思います。
 〝人は食べたものからできている〞ある著名人が言っていた言葉です。私なりの理解では、健康の源は食べ物なので、体に良い食べ物を食べさない、ということだと思います。しかし、体に悪いものの方が美味しかったり、食べたくなったりするのも人の性だと思います。

 こんな実話があります。その昔、私が老人ホームで介護職員をしていた頃の話です。月に1回、昼食にカップラーメンやインスタントカレーを提供する日がありました。言い方を代えれば〝手抜き料理の日〞です。しかし、多くの入居者は、この日を楽しみにしており、皆「美味しい」「美味しい」といいながら即席麺を笑顔で啜っていました。そしてこの光景をがっかりした顔で厨房の管理栄養士が見ています。

 彼女は私に対し「毎日、限られた予算の中で、少しでも美味しいもの、体に良いものを提供するために努力しているつもりなのですが…」。と納得できない表情です。「誰だって、たまには、ジャンクフードを食べたくなるものですよ」。私は、そう言って慰めるしか術がありませんでした。

 話を戻します。月額利用料金が高い老人ホームの場合、当然、食事にもこだわりを持っています。例えば〝一流ホテルで修行をしたシェフが作る食事〞とか〝無農薬野菜、有機野菜を多用した食事〞とか、中には〝低温調理法で調理する〞などと言ったこだわりもあります。

 また、特に目を引くような派手な取り組みではありませんが、次のような細やかな配慮をしているホームもあります。冷凍野菜などを極力使わず、生の野菜を使って調理し、魚の場合は、普通、骨を抜く処理をするため、複数回冷凍と解凍を繰り返しますが、この繰り返しによって味が落ちてしまいます。 そのため、冷凍と解凍を繰り返さずに骨抜き処理をした生の魚を豊洲市場から直接ホームに仕入れています。(前出:あすみが丘グリーンヒルズ/桑原施設長)。 

 もちろん、天然温泉にしろ、食材の調達や調理方法にせよ、これらの取り組みには、当然、相応の費用がかかります。そして、この費用は、利用料金に当然転嫁されます。老人ホームをサービス業だと言うのであれば、当たり前の話です。

 老人ホームを探す上でAホームはBホームに比べて〝食費が高い〞という短絡的な評価ではなく、なぜ高いのか?そして、ホームが提供している価値は自分が求めている価値なのか、という視点を持って老人ホームを見ていくことが重要だということになります。

「職員の配置人数」から見た価値

老人ホームのスタッフと入居者


 月額利用料金に紐づけた場合、職員の配置数についても確認しておかなければなりません。なお、冒頭で申し上げた通り、評価する物差しが多様すぎるため、職員の質に関する話は、今回は無視しています。今後、機会があれば、職員の質についても論じていきたいと思います。

 月額利用料金が高いホームでは、介護職員、看護職員らホーム職員の配置人数が多いことも特徴の一つです。中には、理学療法士などのセラピストなどを配置しているホームも少なくありません。

 通常、介護付き有料老人ホームの場合、介護保険法では、直接処遇職員(介護や看護職員)は、3:1の配置と決まっています。つまり、毎月、要介護入居者3人に対し1名の介護看護職員を常勤換算で配置し、介護支援をしていれば介護保険報酬は得られる仕組みになっています。

 ちなみに、3:1配置と言うと、意外と職員数は多いのでは?というイメージを持つ方もいますが、実際には、60人程度のホームで昼間帯でも介護看護職員配置は10人ぐらいです。その中で数名が入浴を担当し、休憩時間も法によって全員が取らなければならない為、1時間刻みで入居者対応をする職員数を追っていくと、実際には想像以上に少ない人数で対応していることがわかります。

 そこで、多くの月額利用料金の高いホームでは、この配置比率を3:1ではなく、2:1とか1.5:1とかという手厚い配置に自主的にした上で運営をしています。これにより、たとえば、介護保険法に定められている週2回の入浴ではなく、週3回、4回の入浴が可能になったり、早朝から夜間までの幅広い入浴時間の確保が可能になったりしています。

 朝6時から夜10時まで入居者は自由に温泉に入浴できます。(前出:蓮田オークプラザ(株)ITC社/岩田社長)
 これも、職員配置人数が多いことにより実現可能な事実です。また、なるべく入居者を時間で追い立てることの無いようにしたい(前出:桑原施設長)と言うように、人員配置人数が多いホームの場合、入居者の都合をなるべく優先した入居者ファーストの老人ホーム運営が可能になります。

 現実的な一般論を言えば、介護保険法が定める3:1配置は、必要最低限のことをするのが精一杯です。もちろん、ここに介護職員の質の話がかぶさってくるのですが、繰り返しになりますが、「人の質」の話は、複雑で専門的な知識が必要になる為、ここでは論じません。

 したがって、介護看護に代表される現場で働く職員が、ホーム内で多く配置されていることは、それだけでも価値があると言う理解で良いと思います。当ホームの場合、家族の面会は24時間何時でも自由です。(前出:桑原施設長)。これはもちろん、コロナ禍前の話ですが。多くの老人ホームの場合、家族の面会時間は昼間帯と決まっています。理由は、職員配置の手薄な夜間帯では、家族の面会に対応できないからです。

 しかし、人員配置人数が多いホームの場合、対応は可能になります。これにより、会社帰りに自宅の途中にある老人ホームにちょっと寄って親の顔を覗いて帰ろう!と言うことが可能になるのです。 なお、今回のテーマではありませんが、誤解が生じる可能性がある為、次のことにも触れておきます。現在、介護保険業界では、将来に向け「AI」や「ロボット」などが職員の仕事を補完していく研究が進んでいます。

 したがって、トレンドとしては、法が定める職員配置人数は、徐々に減っていくことになるはずです。しかし、中には、先進技術がどれだけ発達しようとも、「人の手の温もりにこだわりたい」と考えるホームも出現するはずです。となれば、当然、その人の手は、人件費として月額利用料に転嫁されることになるはずです。つまり、近い将来、老人ホームにおいても「人の手」自体が「付加価値」になっていくかもしれません。

最後にまとめです


 手厚いサービスの有無と月額利用料金は、正比例しています。つまり、月額利用料金が高いホームであればあるほど、手厚く、きめ細かなサービスを提供しているホームだという理解でよいと思います。もちろん、例外はあると思いますが、例外はあくまで例外です。

 そこで、老人ホームを探している方が考えなくてはならないことは、当該ホームで提供されているサービスは、自分にとって(自分の親にとって)必要なのか否か、という視点です。

 昨今、多様性が叫ばれ、個人の価値観もきめ細かくなってきています。つまり、〝ザクっと皆同じ〞ではなくなっているということです。ある著名な経済評論家の話によると、最近のビリオネア(超富裕層)の中には、洋服などはファストファッションのチープな物を好んで着ていたり、ファーストフードを好んで食べたりと、外見や行動を見ているだけでは、ビリオネアとはわからない人たちが増えてきていると言います。

 つまり、〝お金持ちだからきっとこうだろう〞という既存の概念がかなり崩れてきています。老人ホームも基本同じです。自分の選択可能な範囲の中で、自分にとって必要なサービス(譲れないサービス)に優先順位をつけ、各老人ホームを比較していくことが失敗しない老人ホーム選びの基本です。

 そしてその為には、情報収集能力もさるもの、何より大切なことは、老人ホームの専門家から助言を受けながら自分の課題(首都圏の場合、多くは子世代と親世代の抱えている課題の同時解決が求められている)を整理していくことだと思います。そして、整理ができたら、実際に現地に足を運び、中身を確認すること。この行動を通して、自分にとって本当に必要な老人ホームを見つけて欲しいと思います。

老人ホーム入居の相談をする高齢夫婦



 人が終末を迎えるにあたり、多くの老人ホームの現場は、入居者やその家族の良きパートナーとして、入居者一人ひとりの終末期について真剣に考え、真剣に何をするべきかに取り組んでいます。そして、その取り組み姿勢にかかる費用は『PRICELESS』です。良きパートナーとしての良き老人ホームとの出会いを。


元気かいみんかい編集部

今回、本記事作成にあたり、次の有料老人ホーム様に取材協力をいただきました。ご協力、ありがとうございました。 ご協力いただきました老人ホーム(アイウエオ順)です。

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