遺言執行について
相続が発生した際に遺言書が存在する場合、法律に則った相続よりも基本的に優先されるのは遺言書の内容です。ここでは遺言執行についてお伝えいたします。
遺言執行についてお伝えする前に、まずは遺言書を見つけた際の対応について確認しておきましょう。
遺言書(普通方式)には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」という3つの種類があり、見つかった遺言書の種類によって開封する方法は異なります。
遺言者自身で作成し、自宅等で保管する自筆証書遺言と秘密証書遺言は家庭裁判所の検認手続きにおいて開封する必要があり、勝手に開封すると5万円以下の過料に処されると民法により定められています。これらの遺言書を見つけた際は、家庭裁判所に対して検認の申立てを行いましょう。
なお、公証役場で作成し、その場で原本が保管される公正証書遺言については、家庭裁判所での検認手続きは不要です。
※法務局の保管制度を利用した自筆証書遺言については、検認手続きが不要
検認手続きでは裁判官が遺言書の開封・検認を行い、相続人に対して遺言書の存在と検認日における形状や加除訂正等の内容を明らかにします。申立人以外の相続人の出席については任意であり、全員がそろわなくても検認手続きは実施されます。
※法務局の保管制度を利用した自筆証書遺言は検認手続き不要
遺言執行者について
遺言執行者とは、遺言内容を実現するために必要な各種手続きを代行する者であり、遺言書においてのみ希望する方を指定することができます。
見つけた遺言書のなかに遺言執行者について記載があった場合には、その方が相続人等に代わって預貯金口座の解約や不動産の名義変更等の手続きを行います。
遺言執行者は遺言書の開封とともに遺言内容に沿って各種手続きを進めていきますが、相続人に対して調査・執行内容を報告する義務と、執行完了まで全財産の持ち出しを禁止する権限を有します。また、遺言執行が終了した際には、職務に応じた報酬を相続人等から受け取ることができます。
遺言執行者の指定は必須となるものではありませんが、指定しておくことにより遺言内容通りに財産を分配することや相続人同士のトラブルの回避につながります。また、煩雑な手続きを要する場合には相続人等だけで手続きを進めるのは難しく、負担を軽減させる意味でも税理士や司法書士等の専門家を遺言執行者に指定しておくと安心だといえるでしょう。
なお、遺言書において遺言執行者が指定されていない場合でも、相続人や利害関係者が家庭裁判所に申立てをすることで遺言執行者の選任が可能です。
遺言の実行手続きについて
遺言書の検認手続きが完了した後は遺言執行に必要な「検認済証明書」を申請・発行してもらい、相続手続きに着手します。遺言執行者に指定された者が実行することになる手続きの流れについては、以下の通りです。
1.遺言者(被相続人)の財産目録を作成
遺言者の財産を証明するために必要な登記簿や権利書等を取り寄せ、ひと目で把握できるように「財産目録」を作成します。
2.遺産の分配を行う
遺言内容に沿って遺言者の財産を各相続人等に分配します。あわせて登記申請や金銭の取り立ても行います。
3.相続財産の不法占有者に対して明け渡しの請求を行う
法的な権利がない状態で相続財産を占有している者に対し、明け渡しや移転の請求を行います。
4.相続財産の引き渡しや移転登記を行う
遺言書において相続人以外に財産を遺贈する旨の記載があった場合、指定された配分にもとづいて相続財産の引き渡しをします。引き渡す財産が不動産の場合には所有権移転登記もあわせて行います。
5.戸籍の届出を行う
遺言書において内縁の妻の子や愛人の子などを認知する旨の記載があった場合は、戸籍の届出を行います。
このように、遺言執行者に指定された者は多岐にわたる手続きを行うことになります。
専門知識が必要となる場面も多々ありますので、遺言執行者として各種手続きを進めていくことに自信がないという方は、辞退を検討するのもひとつの方法だといえるでしょう。
<執筆者>
株式会社オーシャン
相続遺言アドバイザー®
黒田 泰
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