認知症の相談事例
「親孝行の娘 母の入居を後悔する日々」
みんかい相談員便り ~認知症の相談事例~
みんかいへお寄せ頂くたくさんのご相談のから、認知症の方の相談事例をご紹介いたします。
前回:ケース1「認知症検査を断固拒否!受け入れてくれるホームが見つからない!!」
ケース2
親孝行の娘 母の入居を後悔する日々
Dさんは元教師、真面目で規則正しい生活を好む方です。
教え子たちからの信望も厚く、ご息女様のEさんにとっては、時に厳しく、愛情を持って育ててくれた、自慢のお母さんです。
Dさんは地方でご子息様と同居されていて、Eさんは東京で旦那様、お子様と3人で暮らしておりました。ところが、ご子息様が闘病の末、他界しまいました。Dさんは、独居で生活することになってしまったのです。
それから間もなく、精神的な不安からでしょう、1人でいる時に呼吸が苦しくなるなど、パニック障害と思われる症状を訴えるようになりました。心配したEさんは、Dさんを東京に呼び寄せ、Eさん家族と、4人で同居を開始しました。同居しても、Dさんの症状は改善しませんでした。
さらに、テレビのリモコンが使えなくなったり、洗髪ができなくなる、などの症状が見られるようになり、認知症検査を受けることになりました。
軽度の認知症との診断でした。
認知症は少しずつ進み、Eさんのみならず、他の家族にも暴言が及ぶようになりました。
Eさんの姿が見えないとパニック症状を引き起こすので、1人にしておくこともできません。ショートステイを利用すれば、周りの人に死にたいと訴えます。
かつての頼もしいDさんの姿は薄れていくばかり。Eさんだけでなく、Eさん家族にも悩みやストレスが広がっていきました。DさんからEさん家族への暴言が出てきたところで、Eさんは在宅介護も限界と考えました。
意を決してDさんを精神科の病院に措置入院させ、そして、その間に、みんかいの相談室に老人ホーム探しのご相談に来られました。
ホーム選びは、何度も話し合いを重ね、6ホームも見学に行きました。熟考した末に、Dさんが少しでも快適に過ごせるようにと、認知症対応がしっかりしている、手厚い介護が受けられるホームを選びました。
声かけを積極的にするホームで、話好きのDさんに合っているということと、近隣の学校から、生徒のにぎやかな声が聞こえてくるところが、元教師だったDさんに気に入っていただけるのではないか、というところも決め手となりました。
(パンフレットに載っていないことが実は重要なポイントです!みんかいでは、気になるホームがありましたら、見学に行かれることをおすすめしています)。
ところが、です。
入居後すぐ、Dさんは、お部屋の窓を開け、外に向かって、「わたしは閉じ込められている」「ここはひどい施設だ」と叫んだのです。そして、Eさんが面会に行くと、おいおいと泣いて一緒に帰りたい、田舎に戻りたいと訴えるのです。
そんな様子を見て、Eさんは動揺し、「わたしはお母さんにひどいことをしてしまった」と自分を責め、悩んでしまいました。
入居から1か月もたたないうちに、Eさんが再度、みんかいに相談に来られました。
入居したホームはDさんに合っていなかったので、もっと良いホームを探してほしい、との相談です。
本当にミスマッチなのか、どんな問題があるのか、Eさんの了解を得て、ホームに様子を確認することにいたしました。
すると、ホームの職員からは意外な言葉を聞くことができました。
「Dさんは、娘さんが来るとひどく泣いたりしますが、帰ったあとはケロッとしてレクリエーションに参加していますよ!」
「ホームにも慣れてきて楽しそうにしています」
DさんはEさんの関心を引きたいという気持ちから、そういった行動をとっているのであって、ホームが合わないわけではないようです。むしろ、意外と順応性があるのかもしれません。
DさんもEさんもお互いに、入居をきっかけに適度な距離感を持つことができて、それぞれの生活を楽しんでいただくことも、とても大切なことなのではないでしょうか。悩んでいるDさんにそのことを丁寧に伝え、転居は見送りとなりました。
文:みんかい事業部 室長 近藤真奈美
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