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有料老人ホームの入居相談者501人アンケート報告書 相談者編(その3)

有料老人ホームの入居相談者501人アンケート報告書 相談者編(その3)

5.老人ホームの入居金額についてです

表7 お探しの老人ホームの入居金額

 なんといっても、入居金は0円という希望が一番多く、166人、全体の31%になります。
これに100万円未満までとする111人を加えると、全体の52%になる為、総論としては、入居金は100万円以下を希望している相談者が多いということがわかります。

 ちなみに1,000万円以上の予算を持っている人は、11人、全体のわずか2%です。ただし、無回答が176人、全体の33%もいる為、この無回答をどう解釈するかで、予算感は変わっていきます。

 私の肌感覚でいうのであれば、入居金に関し、無回答という人は「0円が望ましい」と考えている人ではないかと推察します。もし、そうだとするなら、入居金に対する相談者、つまり、利用者側の正直な気持ちは、「入居金などは払いたくない」ということだと推察することができます。

 少し専門的な視点から考えてみます。入居金が0円ということは、当然、“初期償却費”も0円ということを意味します。これは、老人ホーム運営における事業収支に関し、少なからず影響を及ぼす要因です。

つまり、入居金制度が成立しているということが、多くの老人ホームの運営を維持してくことができるということなので、入居金制度に対し相談者の嗜好が弱くなったり、否定的になったり、さらには、払いたくても経済的に支払いが困難になったりすると、老人ホーム経営にとってネガティブな感が発生します。

 さらに、入居金に関し、次のような考え方が成り立つのではないかと考えます。
今回の調査では、調査対象ではない為、その論拠を示すことはできませんが、入居対象者が多額の資産を持っているケースでは、入居金は子世代にとって、必ずしも否定的な要素ではありません。

 というよりも、むしろ歓迎される側面もあるのではないかと考えます。特に、高額な入居金を必要とする高級ホームの場合、老人ホームに入居するという行為を通して、親名義の預貯金や株券をホームの入居金として顕在化させることが可能になります。この行為により、親の資産状況を今までの憶測から、ある程度の確定事項に変え、資産を見える化できるという効果がでてきます。

 このことは、多くの家族の中で、なかなか解決できていない「お金の話」、つまり子世代にとっては、自分の父親、母親は、いったい、どのくらいの金銭を持っているのだろうか?という永遠の疑問に対し、一定の回答を与えてくれるものです。

 老人ホームの話は、“実はお金の話である”と私は、そう考えていますが、このお金の話に対し、高級ホームの入居金制度は、一定のレベルで回答を与えてくれるものとして、役割があるのではないかと考えることができると思います。

6.老人ホームを探すに至った動機についてです

表8 老人ホームを探そうと思った理由

 老人ホームを探す一番多い動機は、「精神的負担」です。262人、全体の32%を占めます。
次が「肉体的負担」で216人です。さらに「時間的負担」は150人と続きます。金銭的負担が入居動機になっている人も42人いるようです。本アンケートは、複数回答のため、「精神的負担」と「肉体的負担」の両方を負担だとして申告している人がいます。

 つまり、このアンケート結果で分かったことは、相談者の多くは、精神的、肉体的、時間的な負担に対し、在宅介護の限界を感じ、老人ホームへの入居を検討しているということがわかります。

 相談者の立場で考えた場合、要介護状態になっている入居対象者に対し、24時間365日、常に、頭から離れないで気にし続けていかなければならなかったり、それを事由に他の家族に気を遣い続けなければならなかったり、さらには、それが事由で、自分の生活や行動に制約がかかったりと、気が重くなったり、常時、不安や心配があったりと、気力が消耗、精神的に追い込まれていく相談者が多いということも分かります。

 また、肉体的な負担とは、入居対象者に関する在宅での介護に対し、主たる介護者を相談者が担い、肉体的に疲弊しているということです。特に、入居対象者と同居しているケースでは、この傾向が強いのではないかと推察します。

 その他の回答について、詳しくみていきたいと思います。
まず、予防や将来に対する不安を動機にしているケースが、各々少数意見ではありますが散見しています。

 例えば「入居対象者の不安」「入居対象者、家族の為」「身動きがとれる前に入居希望」「入居対象者と遠方の為」「入居対象者の健康」「将来の為」「独居継続困難」「在宅介護困難」「主治医にすすめられて」「老々介護のため」「入居対象者の安全、回復」「プロの方にお願いする方が安心」「生活が心配」「家族の為」などです。

 このような生の意見を聞くと、相談者の“そこはかとない不安感”が伝わってきます。漠然とした不安や心配事が、まるで波のように、時には強く、時には弱く、押したり引いたりを繰り返し、徐々に決断をしていく方向に寄っていくのではないでしょうか?

 「老人ホームへ入居を検討」「いやまだ早いのでは」「老人ホームしかない」というような思考を繰り返し、最終的に老人ホームに入居するという結論になります。改めて、我々は、この部分にもっと耳を傾けることの必要性、この部分に時間をかけて一緒に考えていくことの重要性を痛感しなければなりません。

 がしかし、今の制度下では、この部分に民間企業が時間をかけて対応することには限界があることも事実です。長生きが喜ばれない社会。自分のことは自分で解決をしていくこと。各自の自己責任が求められているように感じます。

 また、入居動機で「入居対象者の希望」としている方が12人存在します。本人が老人ホーム入居を望んでいるということです。望んでいる本当の理由は、今回のアンケート調査ではわかりませんが、中には家族には迷惑をかけたくないとか、家族が自分の為に犠牲になるのは嫌だという理由で、消極的なホーム入居希望になっている可能性も否定できません。 

 「住宅事情」が6人います。これも推測ですが、例えば、広い一戸建てに一人で住んでいるとか、エレベーターの無い団地の5階に住んでいるとか、物理的な課題に対するものに起因する動機ではないかと推察します。

 「退去先、退院先」が動機になっている相談者がいます。病院からの退院催促、他の介護系住宅から“この状態の人は、うちでは面倒を見ることはできません“ということだと思います。私の経験上、多いケースとしては、医療処置が常時必要になったので、その対応が可能な施設に引っ越してください、というケースがあります。

 「リハビリ希望」という動機が2人います。対象者または相談者の希望で積極的なリハビリを受けて「元気になりたい」「歩けるようになりたい」というニーズです。多くの介護施設では、とってつけたような”なんちゃってリハビリ“は、提供しているのですが、利用者の期待に応えるようなリハビリを提供している施設は少数派です。

 当たり前の話ですが、介護保険制度の枠の中だけで、リハビリ施術をするということ自体に無理があるということの理解が必要です。この部分については、事業所側の努力というよりも、制度自体の見直しをしたり、制度の説明を要介護認定時にしっかりとするなどして、過度な期待をさせないという現実的な利用者教育をするなど手を打たなければならないと考えています。

 「入居対象者の負担」が動機になっている方が3人います。長生きリスクのことではないかと推察します。想定より長く生きてしまった為、預貯金が底をつき、年金などの収入などで賄える低額ホームに転ホームを余儀なくされるというケースは、一定数存在しています。私も、かつて子世代の事業の失敗により、高級ホームから入居対象者の年金内で賄えるホーム探しのお手伝いをしたことがあります。

 「特養までのつなぎ」という動機の方がいます。非常に正直な相談者だと思います。実際、有料老人ホームに入居している入居者の多くは、“特養待機組”ということになっています。

 少々手厳しい表現になりますが、現実から考えた場合、このような表現の仕方が則しているように思います。つまり要介護1または2の有料老人ホームに入居している要介護高齢者が、要介護3以上に育った場合、その時点で特養ホームから「お誘い」を受けることが多々あります。

 もちろん、多くは、家族が特養に申し込んでいるからです。そして、一定の要介護高齢者は、この誘いに乗って特養ホームに転ホームをしていきます。この現象は、昔からある現象です。私の経験でも、何度かこの現象を目にしましたが、家族の立場としては、経済的な理由で長い間、有料老人ホームに入れておくことができない為、長期戦になった場合、特養の入居要件を満たした場合、比較的費用負担が低い特養への転ホームを希望することは理解できる話です。

 最後に無回答が74人おります。この無回答がどのような意思表示をしているのかはわかりませんが、老人ホームを探さなければならないというストレスに対し、無言の抵抗、なんでこんなことを自分がしなければならないのかという気持ちの表れではないかとも解釈することができます。

 この項目の最後に、次のような動機を持っていた相談者がいたことを記しておきたいと思います。「今なら、母親を自分やご主人、子供達が嫌いにならないで済むから」という動機です。

 自分の母親が認知症になり、下の始末が上手くいかなくなってしまいました。同居している家族も、その事実に気がつき始め、「おかしいな」から「汚いな」に変わり始めています。このまま在宅生活を継続することは、可能は可能でしたが、最終的な結末は、迷惑な存在と疎まれるのが関の山、火を見るよりも明らかでした。

 そこで、この相談者は、今なら母親を嫌いにならないでホームに送り出せる。そうすれば、家族は母親に会いにホームに行ってくれははずだと考え、おばあちゃんが家族から孤立無縁にならないようにするための方法論として、老人ホームへの入居を考えたといいます。

 このことを、どう考えればよいのでしょうか?
 賛否はあると思いますが、私はこの相談者の気持ちを理解することができます。配偶者や子供たちが自分と同じ気持ちで自分の母親に接してくれるわけではありません。温度差があるのは仕方がないことです。

(つづく)

<501人アンケート 相談者編>
有料老人ホームの入居相談者501人アンケート報告書 相談者編(その1)
有料老人ホームの入居相談者501人アンケート報告書 相談者編(その2)

<501人アンケート 入居者編>
有料老人ホームに対するみんかい入居相談者501人アンケートの報告書(その1)
有料老人ホームに対するみんかい入居相談者501人アンケートの報告書(その2)
有料老人ホームに対するみんかい入居相談者501人アンケートの報告書(その3)
有料老人ホームに対するみんかい入居相談者501人アンケートの報告書(その4)